今回のテーマは電車に電気を送る「架線」です。
架空電車線とは?
電車は字の如く「電気」で走るわけですが、その電気をどこから取り込むかと言うと、屋根上にある「パンタグラフ」という装置を使い、専用の電線から電気を受け取っています。
この専用の電線の事を「架空電車線」といい、一般的には略して「架線」といいます。ちなみに「かせん」ではなく「がせん」と呼びます。これは河川(かせん)との混同をさけるためです。無線で指令所とやり取りする際「かせん上のかせんに飛来物が付着しており…」では、ややわかりにくいですよね。やり取りを円滑かつわかりやすくする為の工夫です。
架空単線式と架空複線式
架空単線式
この架線ですがいくつか種類があります。一般的には「架空単線式」という方式が採用されていて、これが普段皆さんがよく見る電車の架線です。「単線」と名前が表す通り、1本の架線から電気を取り込む方式です。電車は架線から電気を取り込んだ後、線路を介して変電所に戻すという大きな閉回路を構成しています。
架空複線式
では「複線」、すなわち2本の架線が通してある路線もあるのでしょうか?上空に2本も架線がある線路、あまり見た事ないなぁ…と思って調べてみたんですが、ありました。「トロリーバス」がそれに該当するそうです。トロリーバスはゴムタイヤで走行するので電気を変電所に戻す為の線路がありません。その為、屋根上に設置されている2本の「トロリーポール」という集電装置を用いて、閉回路を構成しています。
この架空複線式を採用したトロリーバスですが、現在日本で運行されているのは「立山トンネルトロリーバス」のみ。しかも2024年11月30日が最終運行日なので、まもなく見納めになります!トロリーバスファンの皆さま、見に行くのは今のうちですよ。
※この記事の執筆日は2024年5月29日です。
※2本の架線が通してある方式としては他に、カテナリちょう架式の1つ「ツインシンプル式」という構造のものがあります。今回紹介はしていませんがトロリ線が2本ある贅沢仕様で、高速・高密度運転が可能です。
架空単線式の種類と特徴
架線のうち、パンタグラフと直接接触する電線の事を「トロリ線」といいます。一般的に採用されている架空単線式は、このトロリ線を支持する方法の違いにより3種類に分けることができます。
- 直接ちょう架式
- 剛体ちょう架式
- カテナリちょう架式
直接ちょう架式
トロリ線を直接吊る方式です。シンプルな構造ですが、上下動に弱く、高速走行には対応する事ができません。
剛体ちょう架式
アルミ合金製のT字型剛性導体の下部に、トロリ線を取り付けた構造のものです。トンネルの断面積が小さくても対応できる事から、地上と地下を直通する列車を運行する線区の地下区間において主に採用されています。断線しないという長所がある一方、剛体で完全に固定してしまうので柔軟性が全く無く、高速運転するとパンタグラフが離線してしまうという短所もあります。その為、事業者によってはパンタグラフを増設して対応しています。
カテナリちょう架式
ちょう架線という電線を用いてトロリ線を吊る方式です。さらに「シンプル式」「コンパウンド式」「斜吊式」の3種類があり、さらにそれぞれ種類が分かれるのですが、ここでは代表的に使用されている「シンプル式」と「コンパウンド式」をご紹介します。
シンプル式
シンプル式は、カテナリちょう架式の代表的な方式で、ちょう架線から「ハンガ」というものでトロリ線を吊り下げる構造です。100km/h程度の速度まで対応しています。
コンパウンド式
続いてコンパウンド式は、シンプル式のちょう架線とトロリ線の間に、もう一本の補助ちょう架線を取り付けた構造になっています。補助ちょう架線を介しているため、シンプル式よりもトロリ線を水平に保つことができ、高速運転に適しています。張力を大きくした「ヘビーコンパウンド式」はさらに高速運転に耐えられる為、山陽新幹線の架線に採用されています。
今回、代表的な架線を中心にご紹介しました。実際には、列車の密度、線路の状態、運転する列車の速度などによって、ご紹介していない種類も多く使用されています。
普段列車を利用する際、なかなか上を見上げるという事がないので架線の存在には気がつきませんが、電車列車の運行を支える影の立役者です。今度、もし良かったら駅で列車を待っている時に架線を見てみて下さい。「この番線は通過する列車があるからコンパウンド式、こっちは全列車が停車するからシンプル式」など、意外な発見があるかもしれませんよ。
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