前回、電車の制御方式「抵抗制御法」についてお話いたしました。もしまだ読まれていない方は、こちらも是非チェックしてみて下さい。
この抵抗制御法は、回路上に抵抗器を挿入してモーターにかかる電圧を調整するというものでした。しかし、この抵抗器を全て短絡し、モーターに最大限の電圧をかけたとしても、実際には40km/h程度までしか加速することができません。全国の電車列車が40km/hで走っていたら嫌ですよね。ほんなら車で行くわ!ってなります。
そこで、この後さらに加速していく為に、これから紹介する2つの方法を用います。それが、今回のテーマ「直並列制御法・弱め界磁制御法」です。
電圧2倍!必殺並列繋ぎ!
抵抗制御法を採用している115系電車の場合、一つのパンタグラフから受けた直流1,500Vの電気は、8個のモーターに供給されています。回路は直列です。さて、抵抗器を全て短絡、つまり抵抗器を介さない状態となった電車のモーターには、1個あたり187.5V(1,500÷8)の電圧がかかっています。全ての電圧がかかっているため、列車はこれ以上加速する事ができません。そこで、8個のモーターが直列に構成されている回路を、4個+4個の並列回路に繋ぎ直します。これにより、モーター1個あたりにかかる電圧は375V(1,500÷4)となり、先程の直列回路と比較して2倍の電圧を得る事ができます。
ただし、187.5Vをいきなり375Vにしてしまうと、これまた衝動が発生したり、モーターが壊れてしまう可能性があります。そこで、直列回路から並列回路に切り替える時は、一旦短絡させていた全ての抵抗器を再度挿入します。そして、抵抗制御の時と同様、少しずつ抵抗を短絡させていき、最後は全抵抗器を短絡させて、全ての電圧をモーターにかけるのです。
ところで、同じく抵抗制御法を採用した電気機関車「EF66形」は”F”なので、モーターは6個付いています。この電気機関車は近郊型電車の115系と違い、3回路まで並列にする機構を持っています。6個直列の1回路だとモーター1個あたり250V(1,500÷6)、3個直列の2回路だと500V(1,500÷3)、2個直列の3回路だと750V(1,500÷2)と、合計3段階の調整ができます。さすが、電気機関車ですね!細かな速度調整とパワフルさが必要な車両ならではの構造です。
これ以上加速できない?直並列制御法の限界
並列回路にして、モーター1個あたりにかかる電圧も倍になったし、めでたしめでたし…と言いたいところなのですが、実はこれでもやや不十分なのです。並行回路で全抵抗を短絡した状態で平坦な線路を走行した場合、70km/hほどで加速しなくなります。う〜ん…遅くはない。遅くはないが、もう一息加速して欲しいところですね。
では、EF66形電気機関車と同様、次のステップとして2個直列の4回路にすれば良いじゃん!となるわけですが、並列回路は増やせば増やすほど構造が複雑になります。電気機関車と違い、床下の機器スペースが限られている一般の電車には現実的ではないのです。
いよいよ手詰まりか…と思ったその時、最後の一押しをサポートしてくれる最後の制御方式がいよいよ登場します。待ってました!その名は「弱め界磁制御法」です。かいじを弱める?これまでの制御法とは一味違いそうですね。
反抗的な逆起電力
そもそも、これまで頑張って加速してきましたが、なぜ限界がやってくるのでしょうか?それは、直流モーターの中には、回転すれば回転するほど、それを邪魔しようとする嫌なやつがいるのです。
その邪魔者の正体は「逆起電力」です。逆起電力とは何か?皆さん、中学校の理科の授業で「フレミング左手の法則」という法則を習った事、覚えていますか?試験になると、みんな席でやり始めて異様な光景になる、アレです(笑)
「フレミング左手の法則」とは、中指が電流の向き、人差し指が磁界の向き、親指が力の向きを表しているものです。モーターに電流を流すと、磁力が発生し、回転する力(親指の方向に向かって動く力)となります。
そして、モーターは特性として発電機にもなりうるというのも習ったと思います。こちらは発電機なので「フレミング右手の法則」です。そして、フレミング右手の法則とフレミング左手の法則を同時にやると、中指、つまり電流の向きだけが逆方向を向きますね。すなわち、モーターが回転すれば回転するほど、発電機として打ち消す作用のある電流が生まれ、最終的には加速できなくなってしまうのです。直流モーターの宿命です。
これまで、抵抗制御法や直並列制御法では、この逆起電力よりも強い電圧をかけることにより、加速をしてきました。しかし、直並列制御法という電圧を上げる最後のカードを使ってしまった以上、他の方法を取らなくてはなりません。そこで、この逆起電力そのものを意図的に弱めてしまおうというのが、今回の「弱め界磁制御法」です。
磁界を弱めて加速する?
フレミング右手の法則では、磁界の中を導線(導体)が動く事によって誘導起電力、すなわち逆起電力が発生していました。ということは、この「磁界のパワーを弱めれば、逆起電力も弱くなるんじゃね!?」というのが、この制御方式の考え方です。磁界を作っているのは「界磁」という磁石です。だから「弱め界磁」なんですね。
中学校の理科の実験では大抵の場合、この界磁は「永久磁石」でした。なので、あの頃にもらった実験キットでは弱め界磁制御はできません。電車のモーターは、この界磁がコイルを用いた「電磁石」でできています。なので、この「界磁コイルの電流だけ」を弱めてやれば、磁界が弱まり、そして逆起電力が弱まります。邪魔者が弱くなったモーターは元気を取り戻し、電車はさらに加速をしていくのです。ポイントはこの「界磁コイルの電流だけ」弱くする事です。すなわち、中の回転する側のコイル(電機子コイルと言います)は弱くしません。磁界が弱くなるので回転力は弱まるような感じがしますが、実際には逆起電力の減少によって電流が増加し、回転力を上げる事ができます。
界磁コイルの手前には、電気を界磁コイル側に流さないようにする「誘導分路」という分かれ道が備えてあり、こちらに電気を逃します。この誘導分路には「界磁分流抵抗器」という抵抗器が挿入してあり、この抵抗器を徐々に短絡させていく事によって、界磁コイルに流れる電流を小さくしていきます。
界磁コイルに残す電流は35%程度が限度だそうで、この時は誘導分路へ全体の65%が流れています。また、誘導分路へ流した電流は界磁分流抵抗器で熱として捨てられるので、やっぱりここでも無駄が生じてしまいます。
新しい制御方式
これで逆起電力という敵を弱め、無事に加速することができました。ですが、抵抗制御法から直並列制御法、そして弱め界磁制御法に至る過程で、結構な量の電気を捨ててしまっています。加速するという目的は達成したので、今度は電気を捨てない高効率な制御方式を目指したいところです。
そこで、また新たな制御方式が考え出されました。サイリスタという半導体を用いて開発された「チョッパ制御法」、また先ほどの「弱め界磁制御」に変わる方式として「界磁添加励磁制御法」などがそれです。お話が長くなってしまいますので、これらについてはまた次回以降にいたします。
最後の「弱め界磁制御法」、凄かったですね!磁界を弱めるという発想、なかなか出てきません。考えた人は本当に頭の良い方だったんだと思います。僕だったら諦めて、直並列制御法で満足していたと思います。70km/h止まりの男ですね。
最後までご覧いただき、本当にありがとうございます。
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