近年登場した鉄道車両は、従来の車両と比較して大幅に軽量化されています。それは、車体の素材を鋼鉄からアルミニウム合金またはステンレスにしたり、機器を小型化したりすることにより実現しているのですが、軽量化を語る上で外せないのが、台車の改良です。
従来の台車は、車体の揺れを吸収するために「揺れまくら装置」という装置が取り付けられていたのですが、現在ではこの揺れまくら装置を省略した「ボルスタレス台車」という台車が主流となっています。これにより、大幅な軽量化が実現した他、メンテナンス性の向上にも寄与しています。今日のテーマは「ボルスタレス台車」です。それでは詳しく見ていきましょう!
揺れまくら装置の役割
ボルスタレス台車では省略されてしまった「揺れまくら装置」とは、そもそもどのような役割を持った装置なのでしょうか。
台車は車輪やその車輪を繋ぐ車軸、台車枠、軸受け、軸箱など、様々な部品から構成されています。揺れまくら装置とはこの構成部品のうち、レールを介して伝わる左右の振動を吸収するための装置です。走行中の車体の横揺れや曲線通過時の車体の変位に対して復元力を与え、乗り心地の悪化を防ぐ役割があります。
揺れまくら装置を構成する機器
揺れまくら装置は、以下の機器で構成されています。
上揺れまくら
車体の左右の振動を緩和するほか、台車が車体に対して回転できるようにするために設けられています。画像だとバネの上に覆い被さるようになっている部位が上揺れまくらです。
まくらバネ
上揺れまくらと下揺れまくらの間に設けられ、台車から車体に伝わる上下の揺れを吸収します。画像中央に見える2つのバネがまくらバネです。
この台車枠と車体の間に介在するまくらバネのことを「二次バネ系」といい、対する台車枠と軸箱の間に介在するバネである軸バネ(車輪の左右にチラッと見えるバネ)のことを「一次バネ系」といいます。車体は、この二重に施されたバネによって揺れを抑制しています。
下揺れまくら
上揺れまくら同様、車体の左右の振動を緩和するために設けられています。画像ですとバネの下にある板の部分です。上揺れまくらと下揺れまくらは「まくらバネ」を介して関連しており、お互いに上下方向には自由に動けますが、左右方向にはズレないようになっています。
揺れまくらつり
台車枠の外側に左右2本ずつあり、画像ではまくらバネの外側に見える鉄の棒のようなものがそれです。横方向に振動することで車体の左右の揺れを吸収します。また、両側の揺れまくらつりをハの字形に傾斜させることによって、車体の中心と台車の中心がかたよって重心が移動した時に速やかに元の位置に引き戻す力が働く仕組みになっています。
荷重伝達順序
車体の重さはレールまでに以下の順序で伝達されます。
- 車体
- 心皿・側受
- 上揺れまくら【揺れまくら装置】
- まくらバネ(二次バネ系)【揺れまくら装置】
- 下揺れまくら【揺れまくら装置】
- 揺れまくらつり【揺れまくら装置】
- 台車枠
- 軸バネ(一次バネ系)
- 軸箱
- 車軸
- 車輪
- レール
上記のうち、3〜6までが「揺れまくら装置」です。この順序のことを「荷重伝達順序」というのですが、揺れまくら装置は車体の荷重を台車に伝える重要なポジションにいることがわかります。車体の揺れを抑え、乗り心地を良くするためになくてはならないのですが、一方で大きな鉄板を上下に2枚も履いているため、重量もバカになりません。
ボルスタレス台車の構造
では、ボルスタレス台車はどのような構造になっているかというと、この揺れまくら装置を取り去り、台車枠と車体を前後左右に大きく変位できる「空気バネ」という装置を介して直接接続した方式となっています。揺れまくら(ボルスタ)をなくした(レス)台車で、ボルスタレス台車です。
ボルスタレス台車のメリット
従来の揺れまくら装置付き台車と比較すると、以下のメリットがあります。
- 構造が簡素化できる。
- 大幅な軽量化ができる。
- 部品点数が少なく、台車の製作費や保守費を低減できる。
- 台車枠に強度的に有利な直線の梁(はり)が使用できる。
ボルスタレス台車荷重伝達順序
ボルスタレス台車の荷重伝達順序を見てみましょう。
- 車体
- 空気バネ(二次バネ系)
- 台車枠
- 軸バネ(一次バネ系)
- 軸箱・軸受
- 車軸
- 車輪
- レール
いかがでしょうか。揺れまくら装置付きの台車と比較すると、かなりシンプルになったのがおわかりになるかと思います。揺れまくら装置に相当するのは「空気バネ」のみです。実際に実物を見てみても、旧型と比較すると非常に簡素な作りになっていて一目瞭然です。
ボルスタレス台車まとめ
以上が「ボルスタレス台車」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。
揺れまくら装置の役割
レールを介して伝わる左右の振動を吸収する。走行中の車体の横揺れや曲線通過時の車体の変位に対して復元力を与え、乗り心地の悪化を防ぐ。
揺れまくら装置を構成する機器
上揺れまくら
車体の左右の振動を緩和するほか、台車が車体に対して回転できるようにする。
まくらバネ
上揺れまくらと下揺れまくらの間に設けられ、台車から車体に伝わる上下の揺れを吸収する。
台車枠と車体の間に介在するこのまくらバネのことを「二次バネ系」といい、台車枠と軸箱の間に介在する軸バネのことを「一次バネ系」という。
下揺れまくら
車体の左右の振動を緩和する。上揺れまくらと下揺れまくらは「まくらバネ」を介して関連しており、お互いに上下方向には自由に動けるが、左右方向にはズレない。
揺れまくらつり
台車枠の外側に左右2本ずつあり、横方向に振動することで車体の左右の揺れを吸収する。両側の揺れまくらつりをハの字形に傾斜させており、車体の中心と台車の中心がかたよって重心が移動した時に速やかに元の位置に引き戻すようになっている。
荷重伝達順序
- 車体
- 心皿・側受
- 上揺れまくら【揺れまくら装置】
- まくらバネ(二次バネ系)【揺れまくら装置】
- 下揺れまくら【揺れまくら装置】
- 揺れまくらつり【揺れまくら装置】
- 台車枠
- 軸バネ(一次バネ系)
- 軸箱
- 車軸
- 車輪
- レール
ボルスタレス台車の構造
揺れまくら装置を取り去り、台車枠と車体を前後左右に大きく変位できる「空気バネ」という装置を介して直接接続した方式。揺れまくら(ボルスタ)をなくした(レス)台車。
ボルスタレス台車のメリット
- 構造が簡素。
- 軽量。
- 台車の製作費や保守費が安価。
- 台車枠に強度的に有利な直線の梁(はり)を使用できる。
ボルスタレス台車荷重伝達順序
- 車体
- 空気バネ(二次バネ系)
- 台車枠
- 軸バネ(一次バネ系)
- 軸箱・軸受
- 車軸
- 車輪
- レール
あとがき
車体は軽量化することにより、少ない電力で走行できる他、モーター車両を減らすことができたり、線路への負荷を減らしたりすることができるので、経済的に非常に有利です。日本で初めて営業車両としてボルスタレス台車を採用したのは、1981年に登場した営団地下鉄(現東京メトロ)の8000系車両です。以降、ボルスタレス台車は新型車両の標準的な台車として広く普及しました。
一方で、台車は車両構造において安全に直結する非常に重要な部位であることから、安易に軽量化するべきでないと、あえて揺れまくら装置を採用し続けている鉄道事業者もあります。そのため、「最新型は全てボルスタレス台車を履いた車両」というわけではありませんので、そこはご注意下さい。また、今回は触れていませんがモーターで発生したけん引力を台車枠に伝える方式が様々で、一口にボルスタレス台車と言っても複数の種類が存在します。
次回、列車を利用する機会があれば、向かい側に停車している列車の台車周りを観察してみてください。「これはボルスタレス台車だな」とか、「こんなところにバネが付いている」とか、「この台車はどのように力が伝わるのだろうか」とか、色々な発見や疑問が生まれると思います。台車を見ながら思いを巡らせるのも楽しいですよ。台車は列車の足回りです。是非、好みの足の列車を見つけてみて下さい。
なお、今回のテーマ以外にも台車周りの関連記事を投稿しています。もし、まだ読まれていないようでしたらこちらも是非チェックしてみて下さい!楽しんでいただければ幸いです。
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