電流のせん切り名人!?エコだが高価な「チョッパ制御法」

鉄道の仕組み

 今回のテーマは「チョッパ制御法」です。マンガのキャラクターではありません!れっきとした電気の制御方式の一つです。し・か・も!電気を無駄にしないエコな方式です。

 これまで、抵抗制御法、直並列制御法、弱め界磁制御法とご紹介してきました。電圧の調整が簡単という事で、長い間広く使われてきたこれらの制御方式ですが、どれも電気をジャブジャブ捨てて加速していました。その悩みを一気に解消してくれる救世主、それが今回ご紹介する「チョッパ制御法」です。電圧制御の神、いよいよ現る!ですね。

※電気をジャブジャブ捨てる上記3つの制御方式については、前回・前々回にご紹介しています。まだ読んでいない方は、是非チェックしてみて下さい。

ピアノを奏でて電気ストーブを操る!?「抵抗制御法」

逆起電力と戦え!「直並列・弱め界磁制御法」

半導体技術の進歩により誕生した制御方式

「直流の電気は変圧器で変圧ができない」

 これは今まで何度もお伝えしてきた、直流電流を操る上での大きな悩みです。その為、これまで無駄を承知で電気を意図的に捨てる事によって電圧を調整してきたのですが、このチョッパ制御は電気を捨てません。

 この制御方式は「サイリスタ」という特殊な半導体を用います。半導体の研究開発が進んだ1970年前後から採用が始まり、特に地下鉄ではトンネル内での排熱が少ないという理由から、早期に試験が開始されています。営団地下鉄(現:東京メトロ)の6000系は1970年から量産を開始、旧国鉄では201系が1981年から量産が開始されました。

「チョッパ」とは何か?

 そもそも、この「チョッパ」という単語、聞きなれないですよね。これは「切り刻むもの」という意味です。プロレスの打撃技「チョップ」と同じ語源です。架線から得た電気をサイリスタを使って1秒間に300回という超高速でチョップ、すなわち「入」「切」(=スイッチングといいます)する事によってモーターへの電流を調整するという制御方法です。弱い電圧をかけたい時は「切」の時間の割合を多くし、逆に強い電圧をかけたい時は「入」の時間の割合を多くします。こうする事によって、かけたい電圧を擬似的に作り出す事ができるのです。

超高級「電機子チョッパ」とお手軽「界磁チョッパ」

 チョッパ制御法には2つの種類が存在します。「電機子チョッパ制御」「界磁チョッパ制御」です。

電機子チョッパ

 6000系や201系に採用されたチョッパ制御法は電機子チョッパ制御で、モーターの全ての電流を「入」「切」するタイプのものです。無駄な電気が少ない上、この「入」「切」の時間を連続的に変化させることができるため、滑らかな加速が可能で、かつ抵抗制御車よりも加速をよくする事ができます。そのため、同じ線区を走る抵抗制御車と性能に揃えた場合は、モーター車を減らす事ができるので経済的です。また、ブレーキ時には発生した電気を架線に戻す「回生ブレーキ」というブレーキが使用できます。これは、これまで熱として抵抗器を通して捨てていた電気を架線に戻し、他の列車にリサイクルするという大変優れたブレーキシステムです。

 一方、全ての電流を取り扱うため容量の大きな半導体が必要なこと、この大型の半導体装置を冷却する専用送風機が必要であること、高速で電流を流したり止めたりするため不要な電磁波が発生し、それを抑える機器を搭載しなければならないという欠点があります。長所は多いですが、電車の床下は機器でパンパンです。

界磁チョッパ

 界磁チョッパは私鉄各社で主に採用されました。モーターの界磁コイルの一部だけをチョッパ制御するタイプです。こちらは、抵抗制御、直並列制御までは実は旧型車両と一緒で、弱め界磁制御の部分だけをチョッパ制御します。これにより、界磁の一部の電流を連続的に変化させることにより、直並列制御が終了した中速域以降において滑らかな加速を実現します。また、こちらも「回生ブレーキ」が使用できるほか、電機子チョッパよりも機器を小規模で済ませることができます。電機子チョッパの簡易版といったところでしょうか。

 一方、抵抗制御・直並列制御を併用するので、中速域までに発生する電気の無駄は旧型車両と変わりません。また、「界磁の一部だけチョッパ制御」するために直流複巻電動機という界磁コイルを分割した特殊なモーターが必要になります。この特殊なモーター、お手入れが大変なのだそうです。「電機子チョッパ制御」と「界磁チョッパ制御」それぞれ一長一短ですね。

チョッパ制御法にも問題がある?

 これで、直流の電圧も自由に調整できるようになったし、電気も捨てずに済むようになった!ようやく全てが解決、めでたしめでたし…と言いたいところなのですが、実はここにもまだ問題があったのです。

 この「チョッパ制御法」、実はべらぼうに値段が高いのです。半導体技術が進んできたとはいえ、まだ大電流を制御する半導体はとても高価なものでした。オイルショックで電気代節約しようと思っていたのに…いくら省エネルギーとはいえ、車両の製造コストがかさみまくってしまっては鉄道事業者としては本末転倒です。その為、大変優秀なチョッパ制御車でしたが、旧国鉄がこの制御方式を採用したのは、結局「201系」一系列のみでした。

より費用対効果の高い制御方式へ

 では、もっと安く、かつ「弱め界磁制御」のような旧式よりも省エネルギーな制御方式はないだろうか…という事で、お待たせいたしました。ここで直流モーター最後の制御方式がいよいよ誕生します。今度こそ、省エネルギーと価格を両立した救世主となりうるでしょうか?その名も「界磁添加励磁制御法」です。…名前がまたややこしいですね。「添加」とあるので、界磁に何か添加するんでしょうか?次回はこの直流モーター最後の制御方式「界磁添加励磁制御法」についてお話していきます。

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