列車がちぎれたら任せろ!安全を守る最後の砦「貫通ブレーキ」

鉄道の仕組み

 2024年9月19日(木)、古川〜仙台駅間を走行していた東北新幹線上り「はやぶさ・こまち6号」が315km/hで走行中に分離するという、信じられないような事故が発生しました。この影響により東北新幹線は約5時間にわたり運転を見合わせることに。幸いけが人は出ませんでしたが、連結された新幹線同士が走行中に分離するという史上初の出来事に、メディアでも大きく取り上げられる事態になっています。

 車両の仕組み上、連結器は停止した状態でないと解放できないとのことなので、事故原因は人員的なミスではなく車両側にある可能性があるとのことで、現在原因を調べているそうです。

 さて、原因の追求はJR東日本や専門家の方々にお任せするとして、ここでは連結された車両同士が分離した際に作動する「ブレーキ」についてお話をしようと思います。今回、はやぶさ号とこまち号は分離した際に双方の編成に自動的に非常ブレーキがかかり停止していますが、もともと併結して走行していたわけですから、後方のこまち号には運転士は乗務していません。それなのに何故、こまち号側にも非常ブレーキをかけることができたのでしょうか。それは、列車が分離した際に作動する安全の最後の砦「貫通ブレーキ」という仕組みが備わっているからです。今回のテーマは「貫通ブレーキ」です。それでは、詳しく見ていきましょう!

列車の条件

 お客さんを乗せて走る営業列車は、どんな車両でもよいわけではなく、以下の条件をクリアしたものでなければ走ることができません。

  1. 目的地まで時間通りに走れるけん引力を持っている。
  2. 車両は相互に確実に連結されている。
  3. 一番前の車両の前寄りの運転台で操縦する。
  4. 連結した車両に一斉にブレーキがかかり、また分離した時は自動的にブレーキがかかる「貫通ブレーキ」を備えている。
  5. 運転士のほか、事故の際は付近の列車を停止させる「列車防護」にあたる係員が乗務している。
  6. 停車場の有効長内に列車の長さが収まっている。

 一つひとつの解説は割愛しますが、4番目に「貫通ブレーキ」の文言が出てきましたね!すなわち、列車として運転するには必ず「貫通ブレーキ」が備わっていなければならないということです。

貫通ブレーキとは

 それでは「貫通ブレーキ」とは、どのようなブレーキなのでしょうか。列車の条件の2つ目に「車両は相互に確実に連結されている」というものがありましたね。列車は走行中に分離すると、後ろを走っている他の列車に衝突する危険があります。そのため「車両はバラバラにならないように確実に連結しておいて下さいよ!」ということがここで謳われているわけです。

 ところが、現代ではほとんど発生することはなくなりましたが、過去には列車が分離し大きな事故に発展してしまった事例が少なくありませんでした。そこで万が一、列車が分離したときにも全ての車両に自動的にブレーキがかかる仕組みを持ち合わせていなければ、列車として走ってはいけないということになっています。

 この「連結した車両が分離した際に、全ての車両に自動的にブレーキがかかる仕組みのブレーキ」のことを「貫通ブレーキ」というのです。列車は貫通ブレーキを備えていなければ、お客さんを乗せて走ることはできません。

 また、貫通ブレーキには「ブレーキ軸割合が100%でなければならない」という条件が定められています。列車の車軸の合計本数を「連結軸数」、このうちブレーキが作用する車軸の合計本数を「ブレーキ軸数」といいます。ブレーキ軸割合とは、この連結軸数のうちブレーキ軸数が何%であるかを示す割合なのですが、この割合が100%、すなわち連結軸の全てにブレーキがきかなくては列車として運転してはならないという決まりがあるのです。いくら貫通ブレーキを備えていても、実際にブレーキがきく車軸が少ないようでは安全を担保することはできませんからね。万が一、車両トラブルでブレーキ軸割合が低下してしまった場合は、制限速度を設けて運転するなどの制約を受けます。ブレーキ軸割合は以下の式で算出します。

ブレーキ軸割合=ブレーキ軸数÷連結軸数

貫通ブレーキの仕組み

 では具体的に貫通ブレーキの仕組みを見ていきましょう。貫通ブレーキの仕組みは、旧世代の車両と新世代の車両で仕組みが異なります。

自動ブレーキ

 まずは旧世代車両の貫通ブレーキの役目を担う「自動ブレーキ」からお話していきます。

 自動ブレーキは、連結された車両に「ブレーキ管」という空気管を引き通し、その中に圧縮空気を溜めておきます。このブレーキ管の圧縮空気を排出し内部の空気圧を下げることにより、ブレーキをかける仕組みです。

 列車が分離すると車両に引き通されたブレーキ管は途中でちぎれてしまいます。そのため、圧縮空気が排出され自動的にブレーキがかかるようになっています。

 なお、自動車に搭載されている「衝突被害軽減ブレーキ」とは全くの別物です。同じ名称ではありますが、混同しないようにして下さいね。

電気指令式ブレーキ

 続いて、新世代車両の貫通ブレーキ「電気指令式ブレーキ」についてご紹介します。

 自動ブレーキは、ブレーキ力をブレーキ管内の圧縮空気を減圧することで調整していました。対する電気指令式ブレーキは、連結された各車両へのブレーキ指令に空気を使用するのではなく、電気を使用しています。これにより、空気の配管が少なくなり乗務員室の配管は大幅に簡素化されました。また、空気指令から電気指令にすることによりブレーキの応答性も格段に向上しています。

 電気指令式ブレーキは、ブレーキ管の代わりに非常ブレーキ指令線が編成内を往復して引き通してあり、この線には常に電気が流れています。万が一、列車が分離した時はこの非常ブレーキ指令線がちぎれ、電気が流れなくなることにより列車分離を検知し、各車両に非常ブレーキをかける仕組みになっています。

貫通ブレーキまとめ

 以上が「貫通ブレーキ」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。

列車の条件

  1. 目的地まで時間通りに走れるけん引力を持っている。
  2. 車両は相互に確実に連結されている。
  3. 一番前の車両の前寄りの運転台で操縦する。
  4. 連結した車両に一斉にブレーキがかかり、また分離した時は自動的にブレーキがかかる「貫通ブレーキ」を備えている。
  5. 運転士のほか、事故の際は付近の列車を停止させる「列車防護」にあたる係員が乗務している。
  6. 停車場の有効長内に列車の長さが収まっている。

 列車として運転するには必ず「貫通ブレーキ」が備わっていなければならないと定められている。

貫通ブレーキとは

 列車は走行中に分離すると、後ろを走っている他の列車に衝突する危険がある。そのため、車両は相互に確実に連結されていなければならない。

 貫通ブレーキとは「連結した車両が分離した際に全ての車両に自動的にブレーキがかかる仕組みのブレーキ」のことをいい、列車は貫通ブレーキを備えていなければ、お客さんを乗せて走ることはできない。

 貫通ブレーキは、ブレーキ軸割合が100%でなければならない。ブレーキ軸割合とは、ブレーキが作用する車軸の合計本数「ブレーキ軸数」を、列車の車軸の合計本数「連結軸数」で割った数値のこと。

貫通ブレーキの仕組み

自動ブレーキ(旧世代車両)

 自動ブレーキは、連結された車両に「ブレーキ管」という空気管を引き通し、その中に圧縮空気を溜めておく。ブレーキ時は、このブレーキ管の圧縮空気を排出し内部の空気圧を下げることにより、ブレーキをかける仕組み。

 列車が分離すると車両に引き通されたブレーキ管が途中でちぎれ、圧縮空気が排出され自動的にブレーキがかかるようになっている。

電気指令式ブレーキ(新世代車両)

 電気指令式ブレーキは、ブレーキ管の代わりに非常ブレーキ指令線が編成内を往復して引き通してあり、この線には常に電気が流れている。万が一、列車が分離した時はこの非常ブレーキ指令線がちぎれ、電気が流れなくなることにより列車分離を検知し、各車両に非常ブレーキをかける仕組みになっている。

 自動ブレーキと比較して空気の配管が少なくなり、乗務員室の配管は大幅に簡素化されたほか、応答性も格段に向上している。

あとがき

 列車の貫通ブレーキの仕組みを初めて知った時「今どき列車が走行中に分離するなんてことないだろうに」と思ったのですが、今回の東北新幹線の列車分離事故では、この仕組みが大いに役に立ってしまいました。

 鉄道には「フェイルセーフ」といって、機器に故障が発生した際には、安全側に動作するようになっています。信号機であれば「赤信号」、列車であれば「非常ブレーキがかかる」といった具合ですね。技術がいくら進歩しても人間が作った機械である以上、故障する可能性は0にはできません。そのため、特にブレーキなどの重要機器には過去の教訓を活かし、壊れた時の対策が二重三重と施されているのです。

 今回の列車分離事故に関しては、原因究明が現在も進められています。非常にショッキングな出来事ですが、原因が解明された暁にはしっかりと防止対策を実施し、今以上に安心安全な新幹線になってほしいですね。

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