電車の駆動方式の進化!つりかけ方式からカルダン方式へ

鉄道の仕組み

 前回は軽量化の要素の一つ「ボルスタレス台車」について紹介させていただきました。「揺れまくら装置」という車輪からの振動を緩和するための装置を「空気バネ」に代用させることにより、大幅な軽量化を実現したというお話でした。

 さて、今回も引き続き台車周りの内容でお話をしていきます。電車列車は走行時、当然ではありますがモーターの回転力を車輪に伝える必要があります。このモーターの回転力を車輪に伝える駆動方式の種類と、その進化についてご紹介いたします。今回のテーマは「電車の駆動方式」です。それでは、詳しく見ていきましょう!

モーターの取り付け方

 モーターの取り付け方の一番シンプルな方法は、モーターに取り付けた歯車を車軸に取り付けた歯車に直接噛み合わせることです。普通に考えると、これで問題なく走れそうな気がしませんか?ところが、実際にはこれではうまく走行することができません。これが実現できていたら、このテーマのお話もここで終了します(笑)

 さて、ではなぜモーターの歯車と車軸の歯車を直接噛み合わせてはダメなのでしょうか。それは、車軸側の歯車が「振動する」からです。列車はレールの上を走行しますので、レールの継目や凹凸、カーブなどで振動します。この振動する車軸側の歯車と台車に固定されている歯車を直接かみあわせてしまうと、揺れが異なる2つの歯車を無理矢理繋ぐこととなり、うまく回転しないどころか破損してしまいます。

 この問題を解消するには、台車に取り付けるモーターの設置方法に工夫が必要です。いかに、モーターの回転を車軸の歯車にスムーズに伝えるか、これまで様々な研究がなされ実用化されてきました。ここからは、代表的な駆動方式について紹介していきます。

つりかけ方式

つりかけ方式の仕組み

 モーターの片方を車軸に、もう片方を台車枠に取り付ける方式です。モーターが車軸と台車枠の両方に足をかけているようなイメージです。こうすることにより「車軸の振動とモーターの振動を強制的に合わせる」ことができます。車軸が振動するならモーターも振動させよう!という考え方ですね。これで、車軸の歯車とモーターの歯車はズレることなく噛み合わせることができます。

つりかけ方式の欠点

 ただし、このつりかけ方式には大きな欠点が2つあります。

頑丈なモーターが必要

 まず一つ目は、モーターそのものも激しく振動することから、それに耐えうる頑丈なモーターが必要であるということです。頑丈にすると大型で重量があるモーターとなってしまうことから、高速運転には不向きになってしまいます。

バネ下重量の増加

 二つ目の欠点は「バネ下重量」が増加するという点です。バネ下重量とは、台車の軸バネより下にかかる重量のことです。このつりかけ方式は、モーターの重さが直接車軸にのしかかるので、バネ下重量が増加します。これにより、走行中の振動が大きくなり、また線路にかかる負荷も大きくなってしまいます。

 そこで、車軸に直接モーターを載せる方式を改め、完全に台車枠に取り付けつつ、かつ歯車を円滑に噛み合わせる方法が考え出されました。それが、この後に登場する「カルダン方式」です。

カルダン方式とは

 「カルダン方式」とは、モーターを車軸から完全に切り離し台車枠に取り付ける方式のことです。しかし、冒頭にも申し上げましたが台車枠のモーターと車軸は揺れが異なる為、歯車を直接噛み合わせてしまうとうまく回転を伝えることができず、破損してしまいます。そこで、この2つの歯車のズレを解消するために、ズレを吸収する「継手」という装置が組み込まれており、これによりモーターの回転をスムーズに車軸に伝えられるようになっています。これにより、車軸に直接モーターの重量がかからないのでバネ下重量が大幅に改善されたほか、モーターが振動しないので小型軽量化することができ、高速での運転が可能となりました。乗り心地も大きく改善されています。カルダン方式には、大きく分けて3つの方式があります。

直角カルダン方式

直角カルダン方式の仕組み

 車軸に対してモーターが「直角」に取り付けられている構造の駆動方式です。一見不思議な構造ですが、狭軌で限られたスペースの台車枠においても、比較的大きなモーターを搭載することができます。モーターの回転を「傘歯車」という傘のような形をした特殊な歯車を使い、車軸に対して直角に回転を伝えます。

直角カルダン方式の欠点

 欠点は、モーターを直角に載せている関係上、線路と平行方向に台車が長くなってしまうことや、傘歯車が高価でかつ保守に手間がかかる点が挙げられます。その為、日本においてはあまり採用例はありませんが、唯一相模鉄道だけは近年まで直角カルダン方式を採用した車両が製造されていました。

 特殊な「傘歯車」を使わずに済む構造はないか…ということで、次に登場するのが、「平行カルダン方式」です。

中空軸平行カルダン方式

中空軸平行カルダン方式の仕組み

 こちらは「平行」と名がつく通り、モーターが車軸に対して平行に取り付けられた方式です。その為、先ほどの直角カルダン方式で使用していた傘歯車は必要ありません。

 しかし、平行にすることによりある問題が生じます。それは「平行だとスペースが狭すぎて、揺れを吸収するのに必要な数の継手を収めることができない」ということです、さぁ困った!

 そこで考え出されたのが、継手をモーターの左右に取り付け、小さなスペースでも振動を吸収することができる「中空軸平行カルダン方式」です。

 この方式は継手に「たわみ継手」という継手を用いています。平行四辺形の形をしており、これがたわむことで振動を吸収しています。また、モーターとともに回転する「電機子軸」の中が空洞になっていて、その中をもう一つの軸「ねじり軸」が通る構造になっています。電機子軸の中が空洞であることにちなみ「中空軸」という名前がついています。

回転の伝わり方

 モーターの回転は、まず電機子軸によって、歯車と逆の方向にあるたわみ継手に伝達され、そこから電機子軸の内部に通された「ねじり軸」を介して歯車側のたわみ継手に伝達されます。複雑ですね…このような構造になっている理由は、限られた狭いスペースの中で「ねじり軸」の長さを確保するためです。揺れを吸収するにあたり、ねじり軸にある程度の長さを持たせる必要があるのです。回転の伝わり方は以下の通りです。

  1. 電機子軸
  2. たわみ継手(歯車と逆側)
  3. ねじり軸
  4. たわみ継手(歯車側)
  5. 小歯車(モーター側の歯車)
  6. 大歯車(車軸側の歯車)
  7. 車軸
  8. 車輪

中実軸平行カルダン方式

中実軸平行カルダン方式の仕組み

 技術が進歩し、近年は直流モーターに代わって交流モーターが主流となりました。交流モーターは小型化できるため、スペースに余裕を生み出すことができます。この空いたスペースに継手を収めることにより、さきほどの中空軸平行カルダン方式よりも大幅に構造を簡素化した駆動方式が「中実軸平行カルダン方式」です。

 これは、交流モーターの回転軸「回転子軸」を直接継手に接続します。ここで使用する継手は「WN継手」や「TD継手」という継手が採用されています。継手は1つのみでよく、ねじり軸を長くする必要がないのですが、継手そのものが大型であることから、これまでの直流モーターでは継手を組み込むスペースが足りずに採用することができませんでした。回転子軸に空洞は設けられていませんので「中実軸」という名前がつけられています。

回転の伝わり方

 回転の伝わり方は以下の通りです。中空軸平行カルダン方式と比較すると、シンプルになりましたね。

  1. 回転子軸
  2. 継手(WN継手またはTD継手)
  3. 小歯車(モーター側の歯車)
  4. 大歯車(車軸側の歯車)
  5. 車軸
  6. 車輪

駆動方式まとめ

 以上が「電車の駆動方式」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。

モーターの取り付け方

 モーターの取り付け方の一番シンプルな方法は、モーターの歯車を車軸の歯車に直接噛み合わせること。

 しかし、車軸側の歯車は振動するため、直接噛み合わせると揺れが異なる2つの歯車を無理矢理繋ぐこととなり、破損してしまう。

つりかけ方式

つりかけ方式の仕組み

 モーターの片方を直接車軸に、もう片方を台車枠に取り付ける方式。車軸の振動に合わせてモーターも振動し、双方の歯車をズレることなく噛み合わせることができる。

つりかけ方式の欠点

 モーターも振動することから、それに耐えうる頑丈なモーターが必要。必然的に大型で重量があるモーターとなってしまい、高速運転には不向きとなる。また、モーターの重さが直接車軸にのしかかるのでバネ下重量が増加し、走行中の振動が大きくなり、線路にかかる負荷も大きくなる。

カルダン方式とは

 モーターを車軸から切り離し、台車枠に取り付ける方式。ズレを吸収する「継手」という装置が組み込まれており、これによりモーターの回転をスムーズに車軸に伝えることができる。車軸に直接モーターの重量がかからないので、バネ下重量が改善された。モーターが振動しないので小型軽量化でき、高速での運転が可能となったほか、乗り心地も改善されている。

直角カルダン方式

直角カルダン方式の仕組み

 車軸に対してモーターが「直角」に取り付けられた駆動方式。台車枠の限られたスペースにおいても、比較的大きなモーターを搭載できる。モーターの回転を「傘歯車」という傘のような形をした特殊な歯車を使い、車軸に対して直角に回転を伝える。

直角カルダン方式の欠点

 モーターを直角に載せているため、線路と平行方向に台車が長くなってしまうことや、傘歯車が高価で保守に手間がかかる点が欠点。日本では相模鉄道を除き、採用例は少ない。

中空軸平行カルダン方式

中空軸平行カルダン方式の仕組み

 モーターが車軸に対して平行に取り付けられた方式。継手に「たわみ継手」という継手を使用しており、モーターの左右に計2ヶ所取り付けられている。また、モーターとともに回転する「電機子軸」の中が空洞になっていて、その中をもう一つの軸「ねじり軸」が通る構造になっている。

回転の伝わり方

 モーターの回転は、電機子軸によって歯車と逆の方向にあるたわみ継手に伝達され、そこから電機子軸の内部に通された「ねじり軸」を介して歯車側のたわみ継手に伝達される。

  1. 電機子軸
  2. たわみ継手(歯車と逆側)
  3. ねじり軸
  4. たわみ継手(歯車側)
  5. 小歯車(モーター側の歯車)
  6. 大歯車(車軸側の歯車)
  7. 車軸
  8. 車輪

中実軸平行カルダン方式

中実軸平行カルダン方式の仕組み

 モーターと歯車の間に継手を設けることにより、中空軸平行カルダン方式よりも大幅に構造を簡素化した駆動方式。

 交流モーターの回転軸「回転子軸」を「WN継手」や「TD継手」といった大型の継手に直接接続する。

回転の伝わり方

  1. 回転子軸
  2. 継手(WN継手またはTD継手)
  3. 小歯車(モーター側の歯車)
  4. 大歯車(車軸側の歯車)
  5. 車軸
  6. 車輪

あとがき

 駆動方式の違いは、外見からではなかなかわからないので、ピンとこないかもしれませんが、車体を構成する重要な要素です。技術の進歩により、継手や小型化されたモーターが開発され、それにともない駆動方式も進化してきました。

 元祖となるつりかけ方式は、主に採用された時期が戦前なので、旅客列車においてはなかなかお目にかかる機会がありませんが、電気機関車においては大きな出力が必要でモーターも大型であることから、現在でもつりかけ方式が広く採用されています。また、路面電車の分野においても、高速で走行する必要がないことから、つりかけ方式の列車が現在でも多数運行されています。つりかけ方式は、モーターや歯車の振動が台車枠に伝わるため「ブォーン」という独特の走行音を奏でます。これがまた良い音なんです。旧型の路面電車に乗る機会があれば、是非耳をすませてみて下さい。

 なお、今回のテーマ以外にも台車周りの関連記事を投稿しています。もし、まだ読まれていないようでしたらこちらも是非チェックしてみて下さい!楽しんでいただければ幸いです。

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