運転士はいらない!?鉄道の自動運転技術!

鉄道ニュース

 2024年9月18日(水)、2030年代に山陽新幹線の自動運転を目指すとJR西日本から発表がありました。いよいよ、山陽新幹線でも自動運転の時代がやってくるみたいですね。ところで、新幹線の自動運転についてはJR西日本以外でも、JR東海が東海道新幹線の自動運転を2028年導入を目指しているほか、JR東日本も上越新幹線の一部区間において2028年度から自動運転を導入すると発表しています。あと10年もすれば「新幹線って昔は人が運転していたの!?」なんて言われる時代がくるかもしれませんね。

 ところで、自動運転と一口に言っても無人で運行できるものもあれば、運転士をサポートする機能を搭載した列車を指すこともあり、種類は様々です。そこで今回は、自動運転の種類と実際に自動運転されている鉄道の例を紹介していきます。今回のテーマは「鉄道の自動運転」です。それでは、詳しく見ていきましょう!

自動運転のレベル

自動運転の乗務形態による分類(出典:国土交通省「鉄道における自動運転技術検討会」)

※2018年の資料であるため、GoA2.5の導入線区が「無し」になっていますが、この後ご紹介するJR九州の香椎線において2024年から導入されています。

 自動運転には様々な種類があり、レベル分けがされています。まず、鉄道の自動運転におけるレベルについて理解しておきましょう。国土交通省「自動運転の乗務形態による分類」によると、レベルはGoA(Grades of Automation)と呼ばれる規格で定められており、GoA0からGoA4までに区分されています。

GoA 0:目視運転

 完全に人の注意力のみに頼った運転形態です。自動運転に係る機器類は一切搭載されていません。路面電車がこれに該当します。

GoA1:非自動運転

 加速や減速といった速度の調整は、全て運転士により行われます。一見、GoA0と同じような印象を受けますが、定められた速度を超えてしまったり、赤信号を誤って超えてしまった場合には、自動的にブレーキがかかる仕組みが備わっています。現在、一般的に見る在来線の多くはこのタイプですね。運転士の操作がメインで、仮に運転士がミスをした時に支援してくれる機能を持ったものが、このGoA1です。

GoA2:半自動運転

 さて、ここから大きく自動運転に近づいていきます。GoA2では、列車の加速や減速、停止といった一連の流れは全て自動で行われます。運転士の仕事は主に、駅でのドアの開閉と発車の指示、あとは運転中システムが正常に働いているかどうかの確認と異常時の緊急停止などです。

 このレベルになると、車掌の仕事は運転士やシステムが代わりにできることから、長編成でも運転士のみのワンマン運転が可能となります。全線が立体交差化されている「つくばエクスプレス」や、踏切が存在しない地下鉄、東京メトロ「丸の内線」「南北線」などに採用されています。

GoA2.5:添乗員付き自動運転

出典:JR九州ニュースリリース「香椎線 GoA2.5 自動運転開始」2024年2月22日

 先頭車両の運転台に運転士資格を持たない添乗員を乗務させる形態です。添乗員は異常時の緊急停止や旅客の避難誘導が主な業務で、それ以外は全てシステムが行います。ほぼ自動運転ですが、前方の安全確認は添乗員が行います。車掌が不要な他、添乗員は運転士資格がいらないので、運転士養成の費用を削減することができます。JR九州の「香椎線」で実施されています。

GoA3:添乗員付き自動運転

 GoA2.5と同様、添乗員を乗務させる形態ですが、GoA3ではいよいよ先頭車両の運転台から乗務員がいなくなります。添乗員は先頭の運転台以外に乗務し、緊急時の避難誘導のみを実施します。舞浜リゾートラインがこの形態を採用しており、乗務員は最後部の運転台に乗務、ドアの開閉とアナウンスがメインです。

GoA4:自動運転

 さて、最後となるGoA4では係員が一切乗務しない、言葉通り完全な自動運転です。様々なレベルがある自動運転の最終形態ですね。「ゆりかもめ」や神戸新交通の「ポートライナー」「六甲ライナー」などが該当します。ホームドアが各駅に設置され、かつ踏切が一切介在しない立体交差化された一部の路線に採用されています。鉄道における自動運転の完成形ですが、様々な設備が整っていないと実現できないのでハードルが高く、採用例はまだ多くありません。

自動運転されている路線例

 それでは具体的に、自動運転が行われている路線の例を見てみましょう。

ゆりかもめ(GoA4)

 さきほど紹介した、係員がいない完全な自動運転が行われている路線の一つが、この「ゆりかもめ」です。新橋〜豊洲間を結ぶ路線で、総延長は14.7km。ATO(自動列車運転装置)により無人運転を実施しています。緊急時に備えて車内にはインターホンが設置してある他、ATO装置の故障に備えて定期的に運転士が訓練運転を実施しており、異常時には運転士によるワンマン運転に切り替わります。

 場所は変わって、このゆりかもめと同じシステムを導入している横浜市の「シーサイドライン」では、2019年6月に新杉田駅で逆走事故が発生しています。機器の短絡が直接の原因だったのですが、原因が究明され安全の確認がとれるまでの約3ヶ月間は運転士によるワンマン運転が実施されました。通常は自動運転を実施している為、当然運転士が潤沢なわけではありません。ワンマン運転を実施していた期間は通常時の65%ほどの運転本数となり、大きな影響が出ました。一見優秀な自動運転GoA4ですが、完全に無人化してしまっているので、いざ運転士が多く必要となった時に融通がきかないのは大きな欠点といえるでしょう。

JR九州 香椎線(GoA2.5)

出典:JR九州ニュースリリース「香椎線 GoA2.5 自動運転開始」2024年2月22日

 JR九州の香椎線は西戸崎〜宇美駅間の25.4kmを結ぶ路線です。2024年3月から、この路線では先頭車両の運転台に添乗員を乗務させる形態のGoA2.5レベルの自動運転が開始されました。運転士のほか、運転士資格を有していない係員も乗務にあたっており、前方の安全確認や緊急時の非常ブレーキ操作が主な業務です。

 この路線には多数の踏切が介在しているため、完全な自動運転であるGoA4は難しいとのことですが、一般的な在来線路線でGoA2.5レベルでの自動運転を実現しているという点で、非常に画期的であるといえます。今後の在来線での自動化における一つの見本となるでしょう。鉄道事業者としては人材の確保が難しい中、運転士資格を有していない係員でも列車運行が可能となることや、運転士の養成費用が削減できる点は、完全自動運転でなくとも大きなメリットがあります。

新幹線の自動運転

 冒頭、新幹線の自動運転のニュースを取り上げました。これまで自動運転には様々なレベルが存在するとお話してきましたが、では新幹線はどのレベルの自動運転を目指しているのか。JR東海とJR東日本の事例をご紹介します。

JR東海 東海道新幹線

 自動運転の試験は2021年から開始され、2023年5月には試験の様子が初めて報道陣に公開されました。JR東海によると、東海道新幹線の自動運転は2028年度に「GoA2」の導入を目指して開発が進んでいるとのことです。すなわち、自動運転システムが導入された後も、運転士は先頭車両の運転台に残ることになります。

JR東日本 上越新幹線

出典:JR東日本ニュースリリース「新幹線にドライバレス運転を導入します」2024年9月10日

 JR東日本は2024年9月、上越新幹線への自動運転(GoA2)の導入の他、段階的に自動運転レベルを上げていくと発表しました。

 始めに自動運転が採用されるのは上越新幹線の長岡駅〜新潟新幹線車両センター間の60.8kmで、2028年に自動運転「GoA2」が導入される予定です。その後、2029年度に新潟駅〜新潟新幹線車両センター間の5.1kmで回送列車の自動運転「GoA4」を導入、さらに2030年代には東京〜長岡駅間において自動運転「GoA2」を導入、その後は東京〜新潟駅間の上越新幹線全線で自動運転「GoA3」を導入していくことになっています。※在りし日のE4系。画像古くてスミマセン…。

 各社のニュースリリースを見る限り、回送列車は完全な無人運転、営業列車においても先頭車両に乗務員が乗らない形態を目指している点において、JR東日本の方が先を見据えている印象を受けますが、JR東海の「GoA2」導入予定時期が2028年と上越新幹線と変わらないことから、東海道新幹線においても2030年代にはいずれ「GoA3」に移行するのではないかと個人的には思います。あと10年もすれば、新幹線乗務員を取り巻く環境は大きく変わっているでしょう。

鉄道の自動運転まとめ

 以上が「鉄道の自動運転」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。

自動運転のレベル

GoA 0:目視運転

 完全に人の注意力のみに頼った運転形態で、路面電車が該当。

GoA1:非自動運転

 速度の調整は全て運転士により行われる。速度超過や停止信号冒進といった運転士のミスをカバーしてくれる装置がついた形態。現在、一般的に見る在来線の多くがこのタイプ。

GoA2:半自動運転

 列車の速度調整や停止といった一連の流れは全て自動。運転士は、駅でのドアの開閉と発車の指示、運転中システムが正常に働いているかどうかの確認と異常時の緊急停止などを担う。車掌の仕事は運転士やシステムが代わりにできることから、長編成でも運転士のみのワンマン運転が可能となる。「つくばエクスプレス」や東京メトロ「丸の内線」「南北線」などに採用されている。

GoA2.5:添乗員付き自動運転

 先頭車両の運転台に運転士資格を持たない添乗員を乗務させる形態。添乗員は異常時の緊急停止や旅客の避難誘導が主な業務で、それ以外は全てシステムが行う。添乗員は運転士資格が不要であるため、運転士養成の費用を削減することが可能。JR九州の「香椎線」で実施。

GoA3:添乗員付き自動運転

 添乗員は先頭の運転台以外に乗務し、緊急時の避難誘導のみを実施。舞浜リゾートラインがこの形態を採用している。

GoA4:自動運転

 係員が一切乗務しない、完全な自動運転。「ゆりかもめ」や神戸新交通の「ポートライナー」「六甲ライナー」などが該当。様々な設備が整っていないと実現できないのでハードルが高く、採用例は多くない。

自動運転されている路線例

ゆりかもめ(GoA4)

 係員がいない完全な自動運転が行われている路線の一つ。新橋〜豊洲駅間を結ぶ14.7kmの路線で、ATO(自動列車運転装置)により無人運転を実施している。緊急時に備えて車内にはインターホンが設置してある他、ATO装置の故障に備えて定期的に運転士が訓練運転を実施しており、異常時には運転士によるワンマン運転に切り替わる。

 同様のシステムを採用している横浜市の「シーサイドライン」では、2019年6月に発生した逆走事故後、約3ヶ月間にわたり運転士によるワンマン運転が実施された。

JR九州 香椎線(GoA2.5)

 西戸崎〜宇美駅間の25.4kmを結ぶ路線で、2024年3月からGoA2.5レベルの自動運転を開始した。多数の踏切が介在する一般的な在来線路線であるにもかかわらず、自動運転システムを導入している全国でも初の事例。運転士資格を有していない係員でも列車運行が可能なことや、運転士の養成費用が削減できるなど、メリットは大きい。

新幹線の自動運転

JR東海 東海道新幹線

 2021年から試験を開始。2028年度に「GoA2」の導入を目指して開発が進んでいる。GoA2のため、自動運転システムが導入された後も運転士は先頭車両の運転台に残ることになる。

JR東日本 上越新幹線

●2028年度

 長岡駅〜新潟新幹線車両センター間の60.8kmで「GoA2」を導入予定。

●2029年度

 新潟駅〜新潟新幹線車両センター間の5.1kmで回送列車の自動運転「GoA4」を導入予定。

●2030年代

 東京〜長岡駅間において自動運転「GoA2」を導入。その後、東京〜新潟駅間の上越新幹線全線で自動運転「GoA3」を導入予定。

あとがき

 新幹線は在来線と運転速度は異なるものの、ATC(自動列車制御装置)がすでに導入されているほか、完全に立体交差化されて踏切が存在せず、かつ徐々にホームドアも整備され始めていることから、そう遠くない将来GoA2レベル以上の自動運転になるかもなと想像はしていました。

 一方、今年の3月にGoA2.5の自動運転が開始されたJR九州の香椎線は、踏切が多数存在する一般の路線での自動運転で、とても驚きました。数々のハードルがあるものの、今後は地上を走る一般的な在来線においても自動運転を導入する線区が少しずつ増えていくかもしれませんね。
 列車に限った話ではありませんが、将来「人が運転していたの!?」と言われる時代がくるのでしょうか。日本FP協会のニュースリリース「2023年小学生の男の子のなりたい職業ランキング」では、「電車の運転士・鉄道関連」が8位にランクインしていました。喜ばしい反面、これからだんだんと機械によって代替される可能性があると思うと、少し寂しさも感じてしまいます。

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