ただちに停止!在来線で地震に遭遇したら?

鉄道の仕組み

 2024年8月8日(木)に発生した宮崎県での震度6弱の地震をきっかけに、気象庁は南海トラフ地震の臨時情報を発表、関係地域では列車の運休や徐行運転が行われています。

 前回は新幹線の脱線・逸脱対策についてお話させていただきました。「地震防災システム」や、脱線や線路からの逸脱を防止する「逸脱防止ガード」または「脱線防止ガード」などが新幹線の代表的な脱線・逸脱対策であるという内容でした。まだ読まれていない方は、一番最後にリンクを貼っておきましたので、こちらも是非チェックしてみて下さい。

 では、在来線ではどうなのかというと、ブレーキをかけ始めてから止まるまで新幹線ほどの時間はかからないことから、脱線や線路からの逸脱を防ぐ装置は整備されていません。代わりに、地震が発生したらすぐに対象列車に対して停止指示が伝達されるようになっているほか、駅間での長時間停車を防ぐシステムが導入されています。今回のテーマは「在来線の地震対策」です。JR西日本の在来線で導入されているシステムを例に、詳しく見ていきましょう!

システム導入の契機

 JR西日本では、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災で京阪神地区の在来線の設備に寛大な被害が出ました。車両の脱線を始め、高架橋が崩落したり線路設備や電力設備の破壊、駅の倒壊など地震の影響は多岐に渡ります。この災害をきっかけに、地震の情報を速やかに検知して、列車を直ちに停止させる情報を伝達するシステムの開発・導入が進められました。

地震情報早期伝達システム

システムの概要

 あらかじめ沿線に地震計を設置しておき、この地震計が初期微動(P波)を検知すると、震源地や地震の規模を予測して、影響がある区域を走行している全列車に対して警報を発するシステムです。

P波とS波

 地震には初期微動(P波)と主要動(S波)があり、P波に遅れてS波が到達します。地震計は始めにやってくるこのP波を検知することにより、大きな揺れであるS波が到達する前に列車を停止あるいは減速させることを目的に設置されています。

※P波:Primary wave(第一波)

※S波:Secondary wave(第二波)

地震発生から運転再開までの流れ

地震発生

 地震が発生すると、沿線の地震計がP波を感知します。その揺れの予測が規制値を上回った場合は、対象区域の全列車に対して停止するよう指示を出します。乗務員室に「地震発生!緊急停止!地震発生!緊急停止!」と繰り返し一斉放送が流れ、それを聞いた運転士は直ちに列車を停止させます。新幹線は強制的に停電させることにより自動で列車を止めていましたが、在来線ではあくまで運転士が一斉放送を聞いた後に手動で列車を停止させます。

線路・車両状態確認の確認

 揺れが規制値を超えた地域では、保線係員による巡回が行われたり、電気設備の点検、乗務員は車両状態に異常がないかどうかなどの確認を行います。

運転再開

 線路設備や車両に異常がなければ列車の運転を再開します。ただし、全ての列車が一斉に動き出すわけではありません。指令所は、列車の止まっている箇所を考慮して、列車の発車順序や運転区間を決め、早期に通常のダイヤに戻るよう線区全体を見ながら、列車に指示を出します。また、運転再開後も状況によっては徐行で運転するよう指示を出すこともあります。そのため「運転再開」と情報が入ったとしても、利用している列車がすぐに動かなかったり、徐行運転したりすることがあります。

規制区間別路線図

規制区間別路線図(出典:JR西日本ニュースリリース 地震発生時に乗車されているお客様への迅速なご案内に向けた取り組み 2021年10月11日)

 運転再開までの流れを紹介しましたが、揺れが非常に大きかった場合、運転再開は容易ではありません。様々な設備を点検しなければならないので相当な時間がかかります。もし駅間に列車が止まってしまった場合は、長時間車内で缶詰になってしまうかもしれません。

 そこで、そのような状態になることを防ぐため、乗務員は「規制区間別路線図」を用いて自分の列車がいる線区の規制レベルを確認します。もし、規制レベルが「停止規制」ではなく「徐行規制」だった場合は、次駅まで徐行運転することにより、駅間での長時間停車を防ぐことができます。指令からの指示ではなく、現場の乗務員が運転再開の可否を確認できる点がポイントです。

鉄道地震被害推定情報配信システム(DISER)

鉄道地震被害推定情報配信システム(DISER) (出典:JR西日本ニュースリリース 地震発生時に乗車されているお客様への迅速なご案内に向けた取り組み 2021年10月11日)

 さきほどのシステムだと「停止規制」の区間にいたら、結局動けないじゃないか!となるのですが、そこからさらに一歩踏み込んだシステムが、この「鉄道地震被害推定情報配信システム」です。このシステムは鉄道総合技術研究所が開発したもので、従来の地震計では計測結果を約40kmの範囲に適用していたところ、約500mごとに震度を計算することができるという優れものです。

 乗務員は「規制区間別路線図」で「停止規制」区間にいることを確認した場合は、次にこの「DISER」で自列車の場所を確認します。ここには、さらに500mごとに計測された細かな規制レベルがあり、乗務員はそのレベルに応じた対応をすることで、駅間での長時間停車を極力さけることができます。なお、このDISERを確認後、それでも停止の規制がかかっている場合は運転再開は不可能です。

DISER:Damage Information System for Earthquake on Railway

在来線の地震対策まとめ

 以上が「在来線の地震対策」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。

システム導入の契機

 1995年に発生した阪神・淡路大震災をきっかけに、地震の情報を速やかに検知して、列車を直ちに停止させる情報を伝達するシステムの開発・導入が進められた。

地震情報早期伝達システム

 地震計がP波を検知すると、影響がある区域の全列車に警報を発する。P波を検知することにより、S波が到達する前に列車を停止あるいは減速させる。

地震発生から運転再開までの流れ

地震発生

 地震計がP波を感知すると、対象区域の全列車に停止を指示。乗務員室に「地震発生!緊急停止!」と一斉放送が流れ、それを聞いた運転士は直ちに列車を手動で停止させる。

線路・車両状態確認の確認

 線路や電気設備の点検、車両状態の確認を実施。

運転再開

 異常がなければ運転再開。指令所は早期に通常のダイヤに戻るよう線区全体を見ながら、列車に運転再開を指示する。状況により運転再開後も徐行を指示することがある。

規制区間別路線図

 駅間での長時間停車を防ぐためのシステムの一つ。乗務員は「規制区間別路線図」を用いて自分の列車がいる線区の規制レベルを確認し、移動できる場合は最寄り駅まで徐行運転を行う。指令所からの指示がなくても、乗務員が運転再開の可否を確認することができることがポイント。

鉄道地震被害推定情報配信システム(DISER)

 鉄道総合技術研究所が開発したシステム。約500mごとに震度を計算することができ、乗務員は「規制区間別路線図」で「停止規制」区間にいたとしても、この「DISER」で確認することにより移動できる可能性がある。駅間での長時間停車を防ぐための、さらに一歩踏み込んだシステム。

 新幹線の地震対策は、いかに脱線や線路からの逸脱を防ぐかというところに重点が置かれていました。それに対し、在来線の場合はいかに駅間に長時間停車させないようにするか、というところに注力されているような印象です。

 JR西日本が導入している、この「規制区間別路線図」と「鉄道地震被害推定情報配信システム(DISER)」は、ともに2021年から運用されているのですが、同社は2018年の大阪北部地震の際、多くの列車を駅間に長時間停車させてしまった苦い経験があります。これらのシステムは、その時の反省を踏まえて採用されたものともいえるでしょう。

 地震は予測ができない上、発生すると被害は寛大です。いかに列車を止め、いかに駅間停車を防ぎ、そしていかに運転再開するか。この非常に難しい課題に挑んでいる方々には、頭が下がる思いがいたします。

 最後に、前回お話させていただいた「新幹線の地震対策」のリンクを貼っておきます。まだ読まれていない方は、是非チェックしてみて下さい!

脱線・逸脱を防げ!新幹線の地震対策

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