脱線・逸脱を防げ!新幹線の地震対策

鉄道の仕組み

 2024年8月8日(木)、宮崎県で震度6弱の地震が発生し、気象庁は初めて巨大地震への注意を呼びかける南海トラフ地震の臨時情報を発表しました。影響は交通機関にも広く及び、関係地域では列車の運休や徐行運転を余儀なくされています。

 ほぼ全線にわたり南海トラフ地震の想定震源域となっている東海道新幹線は、三島〜三河安城駅間の速度を285km/hから230km/hに制限して運転しています。仮に地震が発生した場合に、速やかに停止し被害を最小限に食い止めるためです。

 ところで、新幹線では過去に発生した地震災害の教訓から、様々な対策がとられています。代表的なものとしては、地震発生時に速やかに列車を止める「地震防災システム」と脱線や線路からの逸脱を防止する「逸脱防止ガード」または「脱線防止ガード」などです。今回のテーマは「新幹線の地震対策」です。いざというときに、被害をいかにして最小限に食い止めるのか。その仕組みを詳しく見ていきましょう!

地震による新幹線脱線事故の事例

 地震大国である日本では、大地震により度々新幹線に大きな被害をもたらしてきました。地震により脱線に至った事象は、過去に以下の3件が発生しています。

上越新幹線列車脱線事故

 2004年10月23日に発生した新潟中越地震により、上越新幹線浦佐〜長岡駅間において200系新幹線「とき325号」が脱線した事故です。新幹線の営業列車としては史上初の脱線事故となりましたが、幸い負傷者は出ませんでした。

 この脱線事故をきっかけに、地震により脱線した列車がレールから大きく逸脱することを防止するためのガードが各新幹線に設けられるようになりました。

九州新幹線列車脱線事故

 2016年4月14日に発生した熊本地震により、九州新幹線熊本駅〜熊本総合車両所間において800系新幹線回送列車が脱線した事故です。回送列車であったため運転士のみ乗務していましたが、死傷者は出ませんでした。

東北新幹線列車脱線事故

 2022年3月16日に発生した福島県沖地震により、東北新幹線福島〜白石蔵王駅間においてH5系・E6系新幹線「やまびこ223号」が脱線した事故です。新幹線の営業列車としては、上越新幹線に続き2例目の脱線事故となったほか、初めて地震による負傷者が出た脱線事故となりました。この脱線事故は、まだまだ記憶に新しいところです。

新幹線脱線防止対策

 さて、上越新幹線の脱線事故を機に、JR各社では地震発生時に新幹線車両が脱線したり線路から逸脱したりする事を防ぐため、線路や車両に対策を施しました。考え方の違いにより各社で方式が異なります。

レール転倒防止装置+逸脱防止ガイド

レール転倒防止装置(出典:JR東日本ニュースリリース 地震対策の取組みについて 2019年6月4日)

逸脱防止ガイド(出典:JR東日本ニュースリリース 地震対策の取組みについて 2019年6月4日)

 この組み合わせを採用しているのはJR東日本・JR北海道とJR西日本の北陸新幹線です。

 この方式は、線路と車両の両方に対策がなされたもので、地震で列車が脱線した際、車両の台車軸箱の下に取り付けられた突起「逸脱防止ガイド」が、線路に引っかかり逸脱を防止する仕組みです。線路側は「レール転倒防止装置」により逸脱防止ガイドが線路に引っかかっても、レールが大きく動かないようになっています。

 あくまで、地震による脱線を完全に食い止めるのは難しいという考えのもと、脱線後いかに線路から列車を逸脱させないかという考え方に基づいて設置されています。

脱線防止ガード+逸脱防止ストッパ

脱線防止ガード(出典:JR東海ニュースリリース 新幹線及び在来線における地震対策について 2016年6月8日)

逸脱防止ストッパ(出典:JR東海ニュースリリース 新幹線及び在来線における地震対策について 2016年6月8日)

 この組み合わせを採用しているのはJR東海とJR九州です。

 脱線防止ガードは、レールの内側に並行してガードレールを敷設し、地震発生時に車輪をレールと脱線防止ガードで挟み込むことによって、列車を脱線させないようにする仕組みです。

 また、万が一脱線してしまった場合においては、車両床下に設置されている突起「脱線防止ストッパ」により、線路から大きく逸脱しないようになっています。

 JR東海の「安全報告書2023」によると、脱線防止ガードは脱線そのものを極力防止するという目的で設置されており、この点においてさきほど紹介した「逸脱防止ガイド」と考え方が異なります。一度脱線してしまうと、大きな事故は防ぐ事ができたとしても、復旧まで相当な時間を要します。そのためJR東海では、脱線そのものをできる限り防ぐことによって、運転再開を早期に実現する観点からこの装置を採用しているそうです。東海道新幹線は他社の新幹線と比較すると運転本数が多いので、長時間の運休はどうしても避けたいという思惑があるのでしょう。

逸脱防止ガード

逸脱防止ガード(出典:JR西日本ニュースリリース 山陽新幹線の地震対策を全線に拡大 2023年2月28日)

 この方式を採用しているのは、JR西日本の山陽新幹線です。似たような名前の装置が続きますが、こちらはガイドではなく「ガード」で、線路側に施された逸脱対策です。

 逸脱防止ガードは、線路の中央に梯子状のガードを設け、万が一地震により脱線した場合、車輪がガードに引っかかることによって線路から列車が逸脱しないようにするための装置です。経費削減のため、梯子状のガードを中古レールで代用している区間もあります。

 こちらは、逸脱防止ガイドと同じく脱線は許容し、あくまで列車の逸脱を防ぐ目的で設置してあります。

地震防災システム

 地震防災システムは地震情報を監視するシステムで、気象庁から緊急地震速報が出た場合や、新幹線沿線と海岸に設置された地震計が揺れを検知した場合に、新幹線の架線に流れる電気を止め、列車を停止させる仕組みです。

 地震には初期微動(P波)と主要動(S波)があり、P波に遅れてS波が到達します。地震計は、始めにやってくるこのP波を検知して架線を停電させることにより、大きな揺れであるS波が到達する前に列車を停止あるいは減速させることを目的に設置されています。地震計で地震を検知してから実際に送電を停止するまでの時間は、わずか1秒です。

※P波:Primary wave(第一波)

※S波:Secondary wave(第二波)

新幹線の地震対策まとめ

 以上が「新幹線の地震対策」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。

地震による新幹線脱線事故の事例

上越新幹線脱線事故(2004年)

 新幹線営業列車史上初の脱線事故。負傷者はなし。脱線防止対策の契機となった。

九州新幹線脱線事故(2016年)

 回送列車で死傷者はなし。

東北新幹線脱線事故(2022年)

 新幹線営業列車2例目の脱線事故。初めて負傷者が発生した。

新幹線脱線防止対策

方式①

  • レール転倒防止装置
  • 逸脱防止ガイド
●採用している鉄道事業者
  • JR北海道
  • JR東日本
  • JR西日本(北陸新幹線)
●仕組み

 台車軸箱の突起「逸脱防止ガイド」が線路に引っかかり、逸脱を防止する。線路側は「レール転倒防止装置」により大きく動かないよう固定。脱線後に線路から列車を逸脱させないようにする。

方式②

  • 脱線防止ガード
  • 逸脱防止ストッパ
●採用している鉄道事業者
  • JR東海
  • JR九州
●仕組み

 レールの内側にガードレールを敷設。車輪をレールと脱線防止ガードで挟み込み、脱線そのものを極力防止する。脱線した場合は車両床下に設置されている突起「脱線防止ストッパ」で逸脱を防ぐ。

方式③

  • 逸脱防止ガード
●採用している鉄道事業者
  • JR西日本(山陽新幹線)
●仕組み

 線路中央に梯子状のガードを設け、車輪がガードに引っかかることで、脱線後の列車の逸脱を防ぐ。

地震防災システム

 地震情報を監視。気象庁の緊急地震速報や、新幹線沿線と海岸に設置された地震計の情報を受け、架線を停電させ列車を止める。P波を検知することで、S波到達前に列車を停止あるいは減速させる。検知から停電までの所要時間は1秒。

 地震による被害を度々被ってきた新幹線は、これまで様々な対策がなされてきました。今回、その対策内容を理解していただけたのではないかと思います。脱線そのものを防ぐのか、脱線後の逸脱を防ぐのか、各社考え方に違いはありますが、地震による被害を最小限に食い止めたいという気持ちは皆同じです。

 以前と比較すると安全性は飛躍的に高まってきてはいますが、絶対安全という対策は残念ながら存在しません。新幹線利用者の一人としては、これからも安心して乗車できるように、安全対策をさらに進めていってほしいと思います。

 2024年8月8日(木)の宮崎県地震に続き、翌日の9日(金)には神奈川県でも大きな地震が発生し、新幹線の運行に影響が出ました。立て続けに発生する地震で不安を感じている方も多いと思います。私もその一人で、住んでいる地域が南海トラフ地震の被害を強く受ける予想となっています。万が一に備えて、私たちも今のうちに生活の安全対策を進めておきましょう。

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