緊急事態発生!?とって欲しい行動とは?

鉄道雑学

 今回のテーマは「緊急時の行動」です。ないにこしたことはありませんが、列車を利用している時に「もしも」の事があった時、とって欲しい行動をまとめてみました。緊急事態と一口に言っても、急病人、不審者・不審物の発見、火災など様々な状況が思いつくと思います。なのでここでは、

緊急事態:「速やかに乗務員や駅係員に伝えなければならない、命に関わる事象」

と定義付けいたします。

在来線の列車に乗車している場合

 どの項目にも当てはまる共通事項なのですが、緊急事態に遭遇した場合は、乗務員や駅係員などにまずは事態発生を伝えて下さい。

 在来線の列車の場合は、非常ボタンが車端部(妻部と言います)に設置されており、押すと列車は非常ブレーキで停止します。非常ボタンの近くにはマイクが設置されていて、乗務員と直接通話ができるようになっています。乗務員の問いかけが聞こえてきたらマイクに向かって状況を伝えましょう。急病人がおり、次の駅まで走行した方が早く助けられそうな場合は、状況確認後に運転を再開する場合もあります。

 なお、旧型の車両では非常ボタンのみでマイクが付いていないものもあり、この場合は非常ブレーキで停止後、乗務員が直接確認しに来ます。

新幹線の列車に乗車している場合

 新幹線も在来線と同様に車内に緊急用のボタンがあり、まずは押していただく事に変わりはありません。また、乗務員と通話できる装置が付いているものと、非常を知らせるボタンのみがついているものがあるのも同じです。

 ただし、在来線が車両の妻部に押しボタンが設置してあったのに対し、新幹線ではデッキ側にも通話装置が付いているものがあり、乗車している形式により差があります。山陽新幹線の車両を例に、搭載されている緊急用のボタンをご紹介します。

500系、700系、N700系(8両)、N700系(K・X編成)

客室内の妻部に非常ボタンのみが付いています。乗務員とは通話できません。取り扱うと非常ブレーキで停止し、乗務員が確認しに来ます。

N700系(F・G編成)

客室内の妻部に非常ボタンが付いている他、デッキ部に「緊急通報装置」が設置されています。非常ボタンはすぐに列車を停止させますが、緊急通報装置は止まりません。乗務員と通話する事ができ、状況によっては運転をそのまま継続します。

N700S系

 客室内の妻部に非常ボタンと「客室通話装置」の2つが設置されています。客室通話装置は名称こそ違いますが、機能は緊急通報装置と同様で乗務員と通話する事ができます。同じ箇所に非常ボタンと客室通話装置が設置されている為、列車を止めるか止めないか、使う方を選びやすくなっています。デッキに緊急用のボタンはありません。

 とっさの場合はなかなか考える余裕がありませんので、基本的には目についたボタンを取り扱っていただいて構いません。ただ、列車を止めない方が有利な場合、逆に一刻も早く止めた方が有利な場合と両方あると思いますので、使い分けができたら理想です。最新のN700S系はそれに配慮した設計になっています。

列車火災と「北陸トンネル列車火災事故」の教訓

唯一の例外「列車火災」

 これまで、緊急事態に遭遇したら非常ボタンを取り扱うというお話をしてきましたが、唯一例外があります。それは「列車火災」が発生した場合です。火災が発生した時は、非常ボタンを「押さずに」乗務員に事態を知らせて下さい。なぜなら非常ボタンを扱い、停止した箇所がトンネル内であった場合、救出作業が難航し被害が拡大する可能性があるからです。運転士は列車火災を認めた場合、トンネルや橋梁上など避難が困難となる場所を避け、適切な場所に列車を停止させます。実は以前は、トンネル内を含めて、ただちに停止させる決まりになっていました。それを変えるきっかけとなったのが、1972年11月6日に発生した「北陸トンネル列車火災事故」です。

北陸トンネル列車火災事故

 この事故は、北陸トンネル内を走行中の急行列車の食堂車に火災が発生したのが事の発端です。緊急停止後、消火を試みるも失敗。火元の食堂車を切り離す作業をしている最中に架線停電が発生し、トンネルから脱出する事も不可能になってしまったのです。北陸トンネルは13kmを超える長大トンネルです。トンネルには煙も充満しており、救出作業は困難を極めました。結果、多くの死傷者を出す大惨事となりました。

トンネル火災事故の教訓

 この教訓からトンネル内で火災が発生した場合は、運転を継続してトンネルの外へ脱出する取扱いに変更となりました。現在でも車内に設置されている非常ボタンには「列車火災の場合には使用しないで下さい」と注意書きがしてあります。半世紀以上前の苦い経験は、今でもこういったところに活かされています。

駅で列車を待っていた場合

異常を伝える「非常ボタン」

 プラットホームで列車を待っていた時、万が一、人が線路に落ちるといった緊急事態に遭遇したら、迷わず近くにある「非常ボタン」を押して下さい。「SOSボタン」「非常停止ボタン」「非常通報ボタン」などなど鉄道事業者により名称が異なる事がありますが、運転士や駅係員に異常を伝えるという機能は変わりません。

絶対にやってはならないこと

 一番やってはいけない事は、助けに自分も線路に降りてしまうことです。もし、列車が来たら自分の命も危険に晒してしまうことになります。まずは非常ボタンを押し、そして近くの係員に伝えましょう。また、ボタンを押した後であったとしても線路に降りてはいけません。非常ボタンは、あくまで運転士に異常を知らせる装置であって、列車が停止したことを保証する機械ではないからです。一部の線区においては信号機と非常ボタンが連動している例もあるのですが、利用者にはその判別はつきません。非常ボタンを押したら駅係員に速報する事を最優先してください。

 

 以上が、列車を利用中に緊急事態に遭遇した際の皆さまにとって欲しい行動です。最近は、列車内で不審者や不審物が見つかるケースや、放火されて列車火災に発展してしまったケースが残念ながら存在します。また、駅ではプラットホームから人が転落してしまったりする事もあります。鉄道趣味とは少し趣旨が変わりますが、万が一の時は率先して皆さまに行動していただきたいと思い、書いてみました。頭の片隅に入れておいていただけたらとても嬉しいです。

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