今回は引き続き、駅に設置されている設備についてご紹介いたします。前回は係員用の駅設備として「出発反応標識」についてご紹介させていただきました。もし、まだ読まれていない方は、こちらも是非チェックしてみて下さい!駅の屋根からぶら下がる謎の設備!?「出発反応標識」
今回のテーマは「非常ボタン」、駅係員はもちろん、利用する側もいざとなれば使用しなければならない非常に重要な装置です。
この非常ボタンは在来線のホームにも新幹線のホームにも設置されていて、両方とも列車を停止させるという役割は変わらないのですが、機能が異なります。結論から申し上げますと、新幹線用は自動的に列車を停止させる機能がある一方、在来線用は列車を自動で停止させる機能はありません。ちょっと意外ではないですか?在来線用、少しだけ心許ない気がしますね…。それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう!
在来線用の非常ボタン
自動で止まらない非常ボタン
列車を止める役割を持った装置ですが、先ほど述べた通り在来線用の非常ボタンは自動的に列車を止める機能はありません。
危険を知らせる「非常報知灯」
どのようにして列車が止まるかというと、「非常報知灯」というホームの天井からぶら下がっている丸い表示灯があり、非常ボタンを押すとこの非常報知灯が赤色に点滅します。また、取り扱われた非常ボタンからはブザー音が鳴ります。これを認めた運転士は、ただちに非常ブレーキを取り扱い列車を停止させます。
止まったことを保証する装置ではない
もし、運転士が何らかの原因で非常報知灯の確認が遅れると、非常ブレーキの取り扱いが遅れる可能性があります。あくまで停止は運転士頼みなので、非常ボタンを押したからといって、列車が確実に停止したとは限りません。
「線路に物を落とした」「人が線路に転落した」といった非常事態発生時には、速やかに非常ボタンを押して欲しいのですが、押した後に線路に降りることは絶対にしてはなりません。列車が止まっているかどうかは、非常ボタンを押しただけではわからないのです。すぐに駅係員にその旨を伝えましょう。
全てののりばに危険を知らせる「Wマーク」
JR西日本の駅では、非常ボタンに「Wマーク」がついているものがあります。これは、駅の全てののりばの非常報知灯を点滅させる機能を持った装置であることを表しています。すなわち、のりばがたくさんある大きな駅でも、一ヶ所の非常ボタンを押せば、全ての列車に危険を知らせる事ができます。「向かい側のホームで人が転落した!」といった時でも、自分がいるホームの非常ボタンを押せば向かい側のホームの列車も止まります。関係ない列車まで止めてしまうという欠点はありますが、確実に列車に危険を知らせるための重要な機能です。
非常ボタンは各ホームにおおむね20 m間隔で設置してありますので、見回せばたいてい近くにあります。次回、列車に乗る機会があれば、ホームの非常ボタンがどこに設置されているか是非探してみて下さい。
新幹線用の非常ボタン
「列車防護スイッチ」とATC
新幹線用の非常ボタンは、専門用語では「列車防護スイッチ」略して「列防」と言います。「ボタン」だったり「スイッチ」だったり…名称がややこしいですね。
新幹線は「ATC」という保安装置を用いて運転されていて、出してもよい速度や停止信号などは全て運転台に表示されます。もし速度が許容された速度を超えた場合は、自動的にブレーキをかけて許容速度以下まで落とします。運転台に信号が表示されるので「車内信号」と言います。
ATC無信号=停止信号
さて、この列車防護スイッチは在来線のものとは異なり、取り扱うと自動的に列車を止める事ができます。先ほど、新幹線は「ATC」によって運転されていると説明しました。この列車防護スイッチを押すとATC信号は「無信号」となり、車両上では「停止信号」と読み替えられて強制的に列車を停止させます。
この列車防護スイッチも「Wマーク」が付いた在来線の非常ボタンと同様、押されたホームだけではなく、周りの全てのホーム、さらには通過線の列車も停止させます。そのため、向かい側の列車を止めたい時などにも使う事ができますが、関係のない列車まで止めてしまうという欠点も持っています。
駅のホームでは、列車防護スイッチはおおむね50m間隔で設置されています。
入換中は列車防護スイッチでも止まらない!?
列車防護スイッチは新幹線を強制的に止めてくれますが、やはり押したからと言って線路に降りるという事はしてはなりません。なぜなら、番線を移動するために入換作業をしている新幹線は、この「ATC」を使用していないことがあるからです。新幹線の入換作業は、利用する側からしたら頻繁にお目にかかることはないのですが、万が一の事を考え、こちらも駅係員に速やかに伝えるようにいたしましょう。自らの命が守れて初めて他人の命も救うことができます。線路には降りない!在来線、新幹線ともにこれが鉄則です。
非常ボタンまとめ
以上が、在来線と新幹線の非常ボタンのご紹介でした。これまでの内容を以下にまとめます。
在来線
- 押しても列車は自動で止まらない。
- 「非常報知灯」が赤色に点滅し、運転士に危険を知らせる。
- 非常報知灯を認めた運転士はただちに非常ブレーキを取り扱う。
- おおむね20 m間隔で設置されている。
- 「Wマーク」のついた非常ボタンは、全てののりばの列車に危険を知らせる。
新幹線
- 「列車防護スイッチ」が正式名称。
- ATCを「無信号」にし、これを車両側が「停止信号」に読み替えて強制的に列車を止める。
- 全てののりばと通過線の列車を停止させる。
- 入換作業中の新幹線は、止まらない可能性がある。
在来線・新幹線共通
- ボタンを押しても、絶対に線路には降りない。
- 駅係員にすみやかに伝える。
非常ボタンは、駅係員はもちろんのこと、我々一般の利用者も知っておくべき重要な駅設備です。万が一の時のことを考えて、適切に取り扱えるようにしておきましょう。また、繰り返しとなりますが、在来線も新幹線も、ボタンを押したからといって安全になったわけではありませんから、絶対に自らが線路に降りないようにしましょう。過去には助けに入った方が犠牲になってしまうという痛ましい事故も発生しています。まずは自らの命を守りましょう。ボタンを押したら駅係員にすみやかに伝える!鉄則です。
今回は駅の非常ボタンについてご紹介させていただきましたが、以前、列車内で緊急事態に遭遇した時にとって欲しい行動についても、記事を書かせていただきました。鉄道趣味とは少し異なった視点ではありますが、鉄道を愛する方にこそ知っておいて欲しい内容です。まだ読んでいない方は、こちらも是非チェックしてみて下さい!
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