直通運転の宿敵!線路の幅を攻略せよ!

鉄道雑学

 2024年3月16日、北陸新幹線の金沢〜敦賀駅間が開業しました。2015年に長野〜金沢駅間が開業して以来、9年ぶりの延伸開業ということもあり、メディアでは盛んに開業の様子が取り上げられました。一方で関西方面から北陸方面への利便性が悪くなるのではないかというニュース報道もあり、目にされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 在来線と新幹線は線路の幅、すなわち「軌間」が異なるため直通運転することができません。そのため、関西と北陸相互のアクセスは、本来軌間を変えることができる特殊な電車「フリーゲージトレイン(軌間可変電車)」が担うことになっていたのですが、この電車の研究・開発が途中で断念されてしまったため、これまで特急サンダーバード号1本で金沢駅まで行けていたのが、途中の敦賀駅で乗り換えが必要になってしまいました。

 この敦賀駅の乗り換え問題に限らず、軌間の違いに悩まされてきた鉄道が各地に存在しています。今回のテーマは「軌間の違い」です。それでは、詳しく見ていきましょう!

主な軌間の種類

 さて、冒頭軌間には違いがあるとお話しましたが、日本では主に以下の4種類の軌間が採用されています。

標準軌(1,435mm)

 新幹線を代表に、京成、京急、京阪、阪急など、大手民鉄にも採用されています。線路幅が広いので大型の車両を運行するのに有利なほか、走行安定性に優れています。

馬車軌間(1,372mm)

 京王線、直通する都営新宿線などで採用されている、採用例が少ない珍しい軌間です。過去には東京や横浜などの市街地で運行されていた路面電車に広く採用された軌間でしたが、現在では数少なくなっています。

狭軌(1,067mm)

 JRの在来線を始め、各民鉄で最も広く採用されている軌間です。日本で初めて鉄道が走った新橋〜横浜駅間も、この1,067mmの狭軌でした。標準軌と比較すると車両の大型化や安定性に関しては不利ですが、用地の幅が狭くてよいので、建設費の安さでは狭軌に軍配が上がります。

ナローゲージ(762mm)

 三岐鉄道北勢線で採用されている、極めて珍しい軌間です。一般的な鉄道よりも規格が簡易的で、安価に建設された「軽便鉄道」として開業しました。軌間が狭く高速走行には全くの不向きで、北勢線の最高速度は45km/hとなっています。

フリーゲージトレインの開発断念

 フリーゲージトレインの運行が想定されていたのは、湖西線〜北陸新幹線、そして長崎本線〜西九州新幹線の2区間です。それぞれ、在来線と新幹線を乗り換えることなく直通運転させることを想定していました。

 元祖フリーゲージトレインとなる一次車は1998年に登場、その後、二次車、三次車と車両が開発され試験が繰り返されてきました。しかし、最新型の三次車において、走行試験時に台車に傷が見つかり試験が約2年間中断。試験再開後も再度同じトラブルに見舞われ、最終的には解決に至らずに開発を断念する流れとなりました。

 問題はそれに加えて、300km/hで営業運転されている山陽新幹線において270km/hまでしか速度が出せなかったことや、特殊な構造ゆえ台車が重く線路に過大な負担をかけてしまうこと、車両のメンテナンスが高額になることなどの欠点があり、これらを克服できなかったことが挙げられます。

 研究開始から実に20 年、もしかしたら今後も研究を継続していれば解決された問題もあったかもしれませんが、開発に多額の費用がかかっていたことや、西九州新幹線の開業に間に合わなかったことなどが、開発断念の決定打となってしまいました。

線路側を改良した「ミニ新幹線」

 一方で、在来線と新幹線の軌間の違いを克服し、直通運転を成功させた例もあります。JR東日本が運行している秋田新幹線と山形新幹線、通称「ミニ新幹線」といわれる2つの新幹線です。正確には、新幹線の定義から外れるので「新幹線」ではないのですが、東京駅から乗り換えることなく、1本の列車で山形・秋田へ向かうことができます。

 軌間1,435mm、200km/h以上で運転を行う一般的な新幹線のことを「フル規格」と言います。輸送力や速達性の高さ、安定した輸送ができるなどメリットが多いフル規格ですが、莫大な建設費がかかることが大きな欠点です。この山形新幹線と秋田新幹線は、在来線の軌間を新幹線と同じ1,435mmに拡大し、新幹線列車が直通運転できるように改良した線区です。新規に路線を建設しなくてもよいので、費用を節約しつつ、東京から乗り換えなしで列車を走らせることができます。一方、あくまで在来線区間であるので最高速度は130km/hに制限されます。フル規格に対し、このように地上側の軌間を変更して新幹線を直通できるようにする方式を「ミニ新幹線」と言います。

武雄温泉駅「対面乗換方式」

出典:JR九州ホームページ ニュースリリース「2022 年 9 月 23 日ダイヤ改正」2022年6月10日

 長崎〜武雄温泉駅間の部分開業となっている西九州新幹線。計画されていたフリーゲージトレインでの運行が断念され、武雄温泉駅〜新鳥栖駅間が将来どのような運行形態となるのか全くの白紙の状態が続いています。

 博多から長崎に行くには、特急リレーかもめ号に乗車し武雄温泉駅で新幹線に乗り換える必要があるのですが、乗換えの不便を少しでも解消すべく、武雄温泉駅は在来線と新幹線が同一ホームで乗り換えられる「対面乗換方式」が採用されています。乗換えをしなければならないことに変わりはありませんが、乗り換えそのものを簡単にできるようにしてある点で、北陸新幹線の敦賀駅とは大きな違いがあります。暫定的な措置ではありますが、軌間の違いを対面乗換という方式で乗り切った一例です。

「改軌」で克服した路線例

 軌間を変更することを「改軌」と言います。これまで在来線と新幹線の軌間の違いを中心にお話してきましたが、在来線同士でも直通運転先の軌間に合わせるといった事情から改軌を実施した路線が多数存在します。今回は、その中から大手民鉄の2社をご紹介します。

京成線

 京成線の路線は、もともと「馬車軌間」と呼ばれる1,372mmの軌間を採用していました。標準軌1,435mmと狭軌1,067mmの中間に位置する、ちょっと珍しい線路幅です。

 1959年、標準軌の京急線と京急線との直通運転を前提として建設中の都営地下鉄浅草線との相互直通運転を実現するため、1,372mmから1,435mmに改軌する大規模な工事が実施されました。相互直通運転となると、相手の軌間に合わせるか、こちらに合わせてもらうかの2択となりますが、京成線の場合は京急よりも車両数が少ないという理由で、京成が京急に合わせる形となったそうです。

京急線

 対する直通相手の京急線も、実は改軌を重ねた過去を持っています。京急線は歴史を遡ると、京浜電気鉄道と湘南電気鉄道という2つの会社があり、それぞれの路線が横浜市の日ノ出町駅で接続されて今の路線が形成されています。

 京浜電気鉄道は開業当時、1,435mmの標準軌を採用していました。しかし、1905年に品川〜神奈川間が開業した際、将来の東京ならびに横浜の市街地への直通運転を見込んで、東京市電と横浜市電が採用していた1,372mmの馬車軌間に改軌を実施しました。

 ところがその後、浦賀や三浦半島を営業エリアとする湘南電気鉄道と接続させ、直通運転を行う計画が持ち上がります。湘南電気鉄道は1,435mmの標準軌で敷設されていました。このため、京浜電気鉄道は全路線を再度、湘南電気鉄道の軌間と同じ1,435mmの標準軌に改軌することになり、1931年に直通運転を開始しました。また、これにより馬車軌間を採用している東京市電への乗り入れは終了しています。

 狭めたり広げたり、京急線も直通運転する相手先に振り回された過去があったんですね。いっそ日本全国同じ軌間で統一すればよいのに…とも思うのですが、標準軌は標準軌のメリット、狭軌は狭軌でメリットがあり、それぞれその時の経営判断で敷設されています。路線が伸びて周辺の鉄道事業者と直通運転することになった時、「軌間の違い」は大きな障害として立ちはだかります。

軌間の違いまとめ

 以上が「軌間の違い」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。

主な軌間の種類

標準軌(1,435mm)

  • 採用例:新幹線、京成、京急、京阪などの大手民鉄。
  • 特徴:線路幅が広く、大型の車両を運行するのに有利なほか、走行安定性に優れている。

馬車軌間(1,372mm)

  • 採用例:京王線、都営新宿線。
  • 特徴:採用例が少ない珍しい軌間。過去には路面電車に広く採用されていた。

狭軌(1,067mm)

  • 採用例:JRの在来線のほか、各民鉄で最も広く採用。
  • 特徴:標準軌と比較すると車両の大型化や走行安定性は不利。一方、用地の幅が狭くてよいため建設費は安価。

ナローゲージ(762mm)

  • 採用例:三岐鉄道北勢線
  • 特徴:極めて珍しい軌間。軌間が狭く高速走行には全くの不向き。

フリーゲージトレインの開発断念

  • 運行想定区間は、湖西線〜北陸新幹線と長崎本線〜西九州新幹線の2区間。
  • 一次車は1998年に登場。その後、二次車、三次車と開発され試験されたが、台車に傷がつく問題が解決に至らなかった。
  • 300km/hで営業運転されている山陽新幹線において270km/hまでしか速度が出せない、台車が重く線路に過大な負担をかける、車両のメンテナンスが高額になる欠点が克服できていない。
  • 開発に多額の費用がかかっていたことや、西九州新幹線の開業に間に合わなかったことなどが、開発断念の決定打。

線路側を改良した「ミニ新幹線」

  • 軌間1,435mm、200km/h以上で運転を行う一般的な新幹線のことを「フル規格」と言い、輸送力や速達性の高さ、安定した輸送ができるなどメリットが多い反面、莫大な建設費がかかる。
  • 山形新幹線と秋田新幹線は、在来線の軌間を新幹線と同じ1,435mmに拡大し、新幹線列車が直通運転できるように改良した線区。
  • 費用を低減しつつ、東京からの直通運転を実現。ただし、在来線区間の最高速度は130km/h。
  • 「ミニ新幹線」とは、地上側の軌間を変更して新幹線を直通できるようにする方式。

武雄温泉駅「対面乗換方式」

  • 武雄温泉駅では乗換えの不便を解消するため、在来線と新幹線が同一ホームで乗り換えられる「対面乗換方式」を採用。
  • 暫定措置ではあるものの、乗り換えを簡単にできるよう配慮されている点で、北陸新幹線敦賀駅とは大きな差。

「改軌」で克服した路線例

京成線

  • 京成線はもともと1,372mmの「馬車軌間」。京急線と都営地下鉄浅草線との相互直通運転を実現するため、1959年な大規模な改軌工事を実施。

京急線

  • 京急線の前身、京浜電気鉄道は開業当時1,435mmの標準軌を採用。
  • 1905年に品川〜神奈川間が開業した際、将来の東京・横浜の市街地への直通運転を見込み、東京市電と横浜市電が採用していた1,372mmの馬車軌間に改軌。
  • 1,435mmの標準軌を採用している湘南電気鉄道との直通運転が計画され、全路線を再度、標準軌に改軌。1931年に直通運転を開始し、東京市電への乗り入れは終了。

 普段、鉄道を利用していて「軌間」なんて全く意識することがないものですが、過去には様々な鉄道事業者が直通運転を実施する際に苦しんだ、大きな問題の一つであったことが少しは伝わったのではないでしょうか。

 日本に初めて鉄道が伝わった時に採用されたのは1,067mmの狭軌でした。なぜ狭軌だったのかは諸説あるとのことですが、建設費が安く鉄道網をスピーディに広げる点で有利だったことが理由の一つとも言われています。結果的に、平地が狭くカーブを多用せざるを得ない日本の鉄道に適していたという意見もありますが、もし標準軌が初めから採用されていたら、このような軌間の問題は起きなかったのかもしれません。インフラ整備は目先ではなく、長い将来を見据えた計画が大切だなと強く感じた次第です。

 標準軌でもし在来線が整備されていたら、ヨーロッパのように新幹線車両が在来線の線路を走り回る、そんな面白い未来もあったかもしれませんね。

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