加速重視か速度重視か!?性能を左右する歯車比!

鉄道の仕組み

 前回は「つりかけ方式」や「カルダン方式」といった鉄道車両の駆動方式についてお話させていただきました。構造がシンプルな反面、バネ下重量が重く高速走行に不向きなつりかけ式から始まり、現在では小型の交流モーターが主流となり中実軸平行カルダン方式が採用されているという話でした。

 今回も前回、前々回に引き続き台車周りの内容でお話していきます。モーターの回転は様々な機器を介して小歯車に達し、それが車軸側に設けられた「大歯車」と噛み合うことで車輪に力が伝わっていきます。この小歯車・大歯車をまとめて「歯車装置」といい、また大歯車と小歯車の歯数の比率を「歯車比」といいます。実はこの「歯車比」は車両の動力性能を大きく変える非常に重要な要素なのです。今回のテーマは「歯車比」です。それでは、詳しく見ていきましょう!

歯車比とは何か

 先に述べましたが「歯車比」とは、大歯車の歯数と小歯車の歯数の比率をいいます。小歯車は継手の先に設けられモーターと同じ回転数で回転し、大歯車は車軸に設けられているので車軸と同じ回転数で回転します。

 例えば、小歯車の歯数が18枚、大歯車の歯数が81枚だったとします。この場合、小歯車が何回転したら大歯車が1回転するのかを考えます。計算式は…

81÷18=4.5

 小歯車が4.5回転すると大歯車が1回転するということになります。すなわち、この歯車はモーター4.5回転分の力で車輪を1回転させる「回転力」を持っているということです。そのため、モーターの回転力は4.5倍となる一方、回転数は4.5分の1(=9分の2)になります。この「4.5」という数字が「歯車比」であり、以下の式で求めることができます。

「歯車比=大歯車の歯数÷小歯車の歯数」

加速重視・速度重視

 電車の引張力は歯車比に比例します。引張力(ひっぱりりょく)とは、車輪に伝わった回転力により車輪の周りに発生する「レール面を進行方向と逆向きに蹴ろう」とする力、平たく言えば前に進もうとする力のことを指します。また、速度は歯車比に反比例します。すなわち、歯車比が大きい(=大歯車と小歯車の歯数差が大きい)ほどモーターの回転力が強くなり、小さい(大歯車と小歯車の歯数差が小さい)ほど回転数の減少が少なく、高速で走行することができます。このことから、加速重視の通勤型電車は歯車比を大きくし、停車駅が少なく高速で走行する特急型電車は歯車比を小さくすると有利になります。

 ちょっとピンとこない方もいるかもしれませんが、自転車の変速を思い浮かべてみるとイメージしやすいかもしれません。走り始める時は、一番軽い1段に設定します。回転力が大きいので軽い力で走り始めることができますが、回転数は少ないので1段のままどれだけ頑張って漕いでも速度は上がりません。そこで、回転数を上げるために2段、3段、4段と段数を上げていきます。すると、回転力が減少するため重くなりますが、回転数は上がるので自転車は速度を上げることができます。

 なお、電車には「変速機」がありません。そのため、電車を設計するにあたっては用途別に求められる加速力や最高速度を考え、最もバランスのとれた歯車比を選び、設計されています。

実際の電車の歯車比例

 ここでは、JR西日本で使用されている代表的な電車列車を例に、歯車比を比べてみます。

通勤型電車

  • 103系 小歯車15:大歯車91【歯車比6.07】
  • 201系 小歯車15:大歯車84【歯車比5.6】
  • 207系 小歯車14:大歯車99【歯車比7.07】
  • 321系 小歯車15:大歯車98【歯車比6.53】

近郊型電車

  • 115系 小歯車17:大歯車82【歯車比4.82】
  • 221系 小歯車16:大歯車83【歯車比5.19】
  • 223系 小歯車15:大歯車98【歯車比6.53】
  • 225系 小歯車15:大歯車98【歯車比6.53】

特急型電車

  • 381系 小歯車19:大歯車80【歯車比4.21】(やくも)
  • 281系 小歯車17:大歯車96【歯車比5.65】(はるか)
  • 283系 小歯車14:大歯車78【歯車比5.57】(くろしお)
  • 683系 小歯車18:大歯車94【歯車比5.22】(サンダーバード)

新幹線電車

  • 700系 小歯車28:大歯車78【歯車比2.79】※E編成
  • N700系 小歯車28:大歯車78【歯車比2.79】

 いかがでしょうか。通勤型から始まり、特急型にかけて徐々に歯車比が小さくなっていくのがわかるのではないでしょうか。新幹線に至っては極めて小さな歯車比ですね。

 なお、近年登場した車両は交流モーターを使用しているのですが、従来の直流モーターと比較して回転数が大きいことから、歯車比は大きめに設定されています。近郊型の223系や225系は歯車比6.53、国鉄型の通勤電車である103系の6.07より大きな歯車比となっていますね。223系は最高速度130km/hで走行しますので、加速よし高速度よしの非常にパワフルな車両ということになります。さすが、京阪神の看板列車ですね。

蒸気機関車はなぜ車輪がデカいのか

 ところで話が少し変わるのですが、皆さまは蒸気機関車の「動輪」を見たことはあるでしょうか。鉄道の博物館に展示してあったり、場所によっては公園などで静態保存されていたりします。蒸気機関車の動輪、めちゃくちゃ大きいですよね。蒸気機関車の代名詞ともいえる有名機関車「D51」を例にとりますと動輪の直径は1400mm、小学校高学年児童の身長ほどの車輪が備わっています。一方、現在の列車に使用されている車輪の直径は860mm、雲泥の差がありますね。なぜ、蒸気機関車の動輪はこんなに大きいのでしょうか。

 それは、これまでお話してきたこの「歯車装置」がなかったからです。蒸気機関車は発生させた蒸気をピストンに送り込み、そのピストンの反復運動により直接動輪を動かします。そのため、動輪を大きくしないと高速で運転することができなかったわけです。現代の列車が小さな車輪で高速走行できるのは、この歯車装置のおかげだったんですね。歯車装置さまさまです。

歯車比まとめ

 以上が「歯車比」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。

歯車比とは何か

 「歯車比」とは、大歯車の歯数と小歯車の歯数の比率をいう。

「歯車比=大歯車の歯数÷小歯車の歯数」

加速重視・速度重視

 電車の引張力は歯車比に比例し、速度は歯車比に反比例する。すなわち、歯車比が大きいほどモーターの回転力が強くなり、小さいほど回転数の減少が少なく、高速で走行することができる。そのため、加速重視の通勤型電車は歯車比を大きくし、停車駅が少なく高速で走行する特急型電車は歯車比を小さくすると有利になる。

実際の電車の歯車比例

通勤型電車

  • 103系 小歯車15:大歯車91【歯車比6.07】
  • 201系 小歯車15:大歯車84【歯車比5.6】
  • 207系 小歯車14:大歯車99【歯車比7.07】
  • 321系 小歯車15:大歯車98【歯車比6.53】

近郊型電車

  • 115系 小歯車17:大歯車82【歯車比4.82】
  • 221系 小歯車16:大歯車83【歯車比5.19】
  • 223系 小歯車15:大歯車98【歯車比6.53】
  • 225系 小歯車15:大歯車98【歯車比6.53】

特急型電車

  • 381系 小歯車19:大歯車80【歯車比4.21】(やくも)
  • 281系 小歯車17:大歯車96【歯車比5.65】(はるか)
  • 283系 小歯車14:大歯車78【歯車比5.57】(くろしお)
  • 683系 小歯車18:大歯車94【歯車比5.22】(サンダーバード)

新幹線電車

  • 700系 小歯車28:大歯車78【歯車比2.79】※E編成
  • N700系 小歯車28:大歯車78【歯車比2.79】

 なお、交流モーターを使用している近年の車両は、従来の直流モーターと比較して回転数が大きいことから、歯車比は大きめに設定されている。

蒸気機関車はなぜ車輪がデカいのか

 蒸気機関車「D51」の動輪径は1400mm。対する現在の列車に使用されている車輪径は860mmで大きな差がある。これは蒸気機関車に「歯車装置」が存在しないため。蒸気機関車は動輪を大きくしないと高速で運転することができない。

あとがき

 鉄道雑誌やインターネットで車両のことを調べると、必ずといっていいほど、車両概要欄に今回のテーマである「歯車比」が掲載されています。何もわからないと「4.3」とか書かれていても全く理解できませんが、この記事を読んで下さった方であれば「なるほど!歯車比が小さいから、これは特急型車両だな!」と今日から理解できるはずです。是非、色々な車両形式の歯車比を調べてみて下さい。様々な発見ができて面白いかもしれませんよ。

 なお、台車周りに関する記事については、今回の「歯車比」のほかにも「電車の駆動方式」や「ボルスタレス台車」をテーマにした記事も投稿しています。もし、まだ読まれていないようでしたら、こちらも是非チェックしてみて下さい!下にリンクを貼っておきます、電車の仕組みに関する知識がより深まると思いますよ。楽しんでいただけたら幸いです。

軽量化の救世主!?ボルスタレス台車

電車の駆動方式の進化!つりかけ方式からカルダン方式へ

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