【九州特集①】謎の路線!?博多南線とは?

鉄道雑学

 先日、所用で福岡へ行って来ましたので、今回から全4回に分けて「九州特集」を組ませていただきます。

 九州特集、初回のテーマは「博多南線」です。この博多南線、区間がわずか1区間しかなかったり、新幹線の扱いではないのに新幹線車両で営業されていたり、特急列車しかなかったりと、なかなか個性的な路線です。地元の方からすれば何の変哲もない路線かもしれませんが、全く知らない方が利用するとなると多少戸惑うかもしれません。そんな個性派路線「博多南線」、詳しく見ていきましょう!

わずか一区間!?

路線の距離8.5km

 博多南線は、博多駅から博多南駅までを結ぶ路線で、始発駅を出発したら次は終点です。所要時間は8分路線の距離は8.5km最高速度は120km/hまで出せるらしいのですが、表定速度は上記の所要時間だと64km/hです。分岐器などの速度制限箇所を加味したとしても、普段そこまで高い速度を出すことはないのかもしれませんね。

回送線を営業路線に転換

 さて、何故ここまで短い路線なのかというと、本来回送線として使用されていた路線を営業路線に転換したからです。その為、終点の博多南駅は「博多総合車両所」という山陽新幹線の車両基地の一角に設けられています。

博多南駅が設置された経緯

1時間が10分!?住民の悲願

 現在、博多南線として営業している路線は1974年の山陽新幹線が博多まで開業する前年、博多総合車両所までの回送線として使用が開始されました。当時は営業路線として使用する構想は全く無かったのですが、車両基地の周辺から博多駅まで自動車やバスで向かうと1時間かかるところ、新幹線の回送列車は博多駅まで10分程度で到着していたので、住民から「回送列車に乗せてくれ!」という声が出始めます。確かに渋滞する中、1時間かけて通勤・通学している横を、新幹線がお客さんを乗せずに颯爽と駆け抜けていくのを見たら、乗せて欲しいと思いますよね。宝の持ち腐れです。

1990年開業!地域交通の救世主に

 車両基地がある春日市と那珂川市(当時は那珂川町)は、山陽新幹線開業時は田畑が広がる田園地帯でしたが、年々福岡市のベッドタウンとして発展し、交通渋滞は悪化の一途を辿っていました。しかし、公共の交通機関はバスのみで鉄道はありません。そのため、地域住民による回送線の営業路線化の要望が続けられ、紆余曲折を経て1990年にようやく開業するに至りました。時間はかかりましたが、地域住民の方々の粘り勝ちですね。所要時間1時間の道のりがわずか10分、恩恵は計り知れません。

博多南線の苦悩

 博多南線の開業により、利便性が格段に向上した博多南駅周辺は、福岡市のベッドタウン化がさらに加速しました。開業当初、1日あたり約4,000人であった利用者数は2022年度には新型コロナによる影響が残るものの、約14,000人にまで増加しています。こうなると、一般の路線であれば列車をたくさん増発させたり、編成両数を伸ばしたりして対応しますが、以下の理由により博多南線はそのような対応に限界があります。

8両分しか対応できないホーム

 博多南駅のホームは8両分しか設けられていません。そのため、対応できる編成はこだま号やさくら号などで使用されている500系、700系、N700系の8両編成に限定されます。16両編成の新幹線車両は残念ながら使用できません。これでも、以前は0系6両編成に対応したホームでしたが、その後2両分延長され、現在の長さに至っています。

基本は回送列車の営業列車化

 あくまで「回送列車の有効活用」という考えのもとに運用されているので、こだま号が車両基地から出庫する、または車両基地に入庫するタイミングで設定されます。朝夕の通勤時間帯には、利用者の数を配慮して博多南線専用列車として博多折り返しをする列車もありますが、それは稀な例。基本は回送列車の転用です。

新幹線と路線や駅を併用

 博多駅から博多南駅までは、その大部分がJR九州が管轄している九州新幹線と路線を併用しています。その為、博多南線の列車は九州新幹線とのダイヤの調整が必須です。また、博多駅も新幹線が頻繁に出入りしますので、その合間を縫って入線する必要があります。博多南線の列車を増やしたり、時刻を変更しようとするときは、これら九州新幹線の列車や、博多駅を発着する列車に支障しないようにする必要があるので、他の路線と比べるとかなり制約があるといえます。

博多南線の位置付け

あくまで「在来線特急」

 博多南線は新幹線の車両を使用して運行されているのですが、実際には在来線の扱いなので、新幹線用の特急券は必要ありません。その代わり、在来線の「特急列車」の位置付けなので、乗車券だけでは乗れず、別途専用の特急券が必要です。その為、例えば広島駅からこだま号を利用して、そのまま乗り換えずに博多南駅まで行く場合には、同じ列車に乗り続けているにもかかわらず、広島〜博多駅間の新幹線特急券と、博多〜博多南駅間の特急券、そして広島〜博多南駅間の乗車券、合計3枚のきっぷが必要になります。ちょっとややこしいですね。

 また、スマートフォンやパソコンなどで経路検索をするときも注意が必要です。検索条件で「有料列車」や「有料特急」などの在来線特急列車からチェックが外れていると、いくら検索しても「該当なし」となってしまいます。これは、博多南線を走っている列車が全て「特急列車」の位置づけだからです。博多南駅へ行く際、事前に経路検索をして時刻を調べる際は、必ず条件設定で「有料特急」の項目にチェックを付けておきましょう。

現地の自動券売機ではセットで購入可

 なお、博多駅や博多南駅の自動券売機で博多南線のきっぷを購入しようとすると、特急券と乗車券を別々に購入することもできますが、初期画面では乗車券200円と特急券130円が合計された330円のボタンが表示されます。

※画像は特急券のみの例です。

現在の博多南駅とその周辺

博多南駅

 博多南駅は在来線扱いなので、設備は在来線と同じものが使用されています。ホームに設置されている非常ボタンは、新幹線用の「列車防護スイッチ」ではなく、在来線用の非常ボタンです。そのため、ATCと連動していないので押したからと言って列車は自動では止まりません。運転士は非常報知灯の点滅を確認して、列車を停止させます。

 また、自動改札機は新幹線の駅に設置されているものと同様ですが、駅そのものは簡易的な作りなので非常に違和感があります。自動改札機の先に新幹線車両を見ることができるのも、博多南駅ならではの光景でしょう。 

博多南駅周辺

 博多南駅の所在地は、福岡市ではなく那珂川市という町と春日市という町の境目にあります。博多南駅が設置された経緯でも述べましたが、以前は田畑が広がる田園地帯だったそうです。現在は、福岡市のベッドタウンとして周辺は住宅地となっていて、マンションなどが林立しています。周辺を少し散策してみましたが、田園地帯であった面影はもはや全くありません。駅前には立派な駅前広場やバス停が整備され、駅ビルも建っています。

 駅前を九州新幹線と並行に伸びる道路があるのですが、「新幹線通り」という名前が付けられていました。鉄道が街に与える影響は本当に大きいなと驚くばかりです。

似た特徴の路線

 余談となりますが、この博多南線のような特殊な運行形態は、上越新幹線の越後湯沢〜ガーラ湯沢駅間でも見ることができます。こちらは、スキー客専用の駅で、冬季のスキーシーズンのみの営業です。新幹線車両を使用して運行されていますが、在来線の特急列車扱いで運賃の他、専用の特急券100円が必要です。

 こちらは専らスキー客を主眼に置いた路線なので、地域の足として利用されている博多南線とは性格が異なりますが、両方とも安い特急料金で乗れる在来線特急扱いの新幹線という特殊な点は同じです。

博多南線まとめ

 以上が「博多南線」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。

一区間しかない理由

  • 本来回送線として使用されていた路線を、営業路線に転換したから。
  • 博多南駅は「博多総合車両所」の一角に設置。

博多南駅が設置された経緯

  • 博多駅まで自動車やバスで1時間のところ、新幹線の回送列車は10分。
  • 地域住民から回送列車に乗せてほしいという要望を受け、1990年に開業。

博多南線の苦悩

 利便性が向上し利用者数は増加したが、以下の理由で簡単に増発・両数変更ができない。

  • 8両分しか対応できないホーム。
  • 一部の列車を除き、あくまで回送列車の有効活用。こだま号が車両基地から出入りするタイミングで設定されている。
  • 新幹線と路線や駅を併用しており、制約が大きい。

博多南線の位置付け

  • 新幹線車両を使用して運行されているが、在来線特急の扱い。
  • 新幹線用の特急券は必要ない代わりに、別途130円の特急券が必要。

現在の博多南駅とその周辺

博多南駅

  • 博多南駅は在来線扱いの為、非常ボタンが在来線仕様。ATCと連動していない。
  • 簡易的な駅舎。新幹線と同様の自動改札機の先に、停車中の新幹線車両を見ることができる。

博多南駅周辺

  • 福岡市のベッドタウン。周辺はマンションが立ち並ぶ住宅地。
  • 立派な駅前広場やバス停が整備され、駅ビルもある。「新幹線通り」という道路がある。

似たような路線

 上越新幹線の越後湯沢〜ガーラ湯沢駅間は、新幹線車両を使用した在来線特急で、博多南線と同じ特徴を持つ。

 

 九州特集の第一回目「博多南線」いかがだったでしょうか?博多南駅は博多総合車両という、山陽新幹線の車両基地の一角に設置されているので、ホームで列車を待っている時や、車内で発車を待っている時は、車両基地の一部を見る事ができるのですが、これがもう本っ当に圧巻です!新幹線がズラッと並んでいるこの贅沢な光景を眺められるのも、この博多南駅ならではといえるでしょう。もう、何時間でも見ていられますよ。是非、この光景を見に博多南駅に足を運んでみてください。きっと後悔しないはずです。

※記事の中の運賃、料金、所要時間は、執筆した2024年7月22日現在のものです。

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