九州特集、最後となります第4回目のテーマは「交流電車」です。日本全国には様々な電車列車が運行されていますが、それらは大きく「直流電車」と「交流電車」に分けられます。東京や大阪、名古屋などの都市部を始め、本州の電化区間の多くは直流電化されているのですが、北海道や東北地方、北陸地方、そして九州地方(※)では「交流電化」されています。今回は、この交流電化区間の特徴と、そこで運行されている交流電車について詳しく見ていきます!
※筑肥線と唐津線を除きます。
交流電化の特徴
交流電化の長所
電気は長い距離を送ろうとすると、電線そのものの抵抗により「電圧降下」が発生します。この電圧降下を小さくするには、流れる電流を小さくすればよいのですが、そのためには電圧を高くする必要があります。交流電化区間は20,000Vという非常に高い電圧で送電されています。そのため、電流を小さくすることができ、遠くまで電力の損失を抑えた状態で送電することができるのです。遠くまで効率よく電気を送ることができるので、沿線の変電所を少なくすることができる上、変電所の設備を簡素化することもできます。在来線では約30kmごとに変電所が設置されています。
交流電化の短所
交流電化区間は非常に高い電圧で電気を送るため、その電気をそのままモーターに流すことができません。そのため、車両側に変圧器と整流器を搭載する必要があり、構造が複雑になる上、重量が重くなります。また、搭載機器が増えることにより、車両は高価になります。
また、高い電圧の交流電気を流すと、電磁誘導作用により周囲の電線に「誘導電流」が流れてしまう恐れがあります。そのため、交流電化区間では電磁誘導作用が周りの電線に影響しないよう、対策をとる必要があります。
直流電化の特徴【参考】
直流電化の長所
対する直流電化区間は1,500Vで送電されており、変電所から送られた電気を変圧・変換することなく、そのまま利用することができます。そのため、変圧器や整流器を搭載する必要がなく、交流電車よりも価格は安価に抑えることができます。また、電磁誘導作用の対策も必要ありません。
直流電化の短所
直流電化区間の電圧は、モーターで使用できる範囲内としなければならないので、電圧を高くすることができません。電圧が低いと電圧降下が大きくなってしまうので、遠くまで送電することができません。そのため、沿線には多くの変電所を設ける必要があります。直流電化区間の変電所は3〜10km間隔で設置されており、交流電化区間との差は歴然です。車両価格が安い分、地上設備に多額の費用が発生します。
どの電化方式が有利なのか
以上の特徴をまとめると、交流電化方式は「車両価格は高いけど、地上設備は安い」、直流電化方式は「車両価格は安いけど、地上設備は高い」ということになります。そのため、列車密度の高い東京や大阪など、車両が多く必要となる都市部には車両が安価な直流電化方式、列車密度が低い地方の路線では、地上設備が安価な交流電化方式が有利ということになります。
九州地方は電化される際、想定される電車列車の本数を考えた結果、交流電化が有利と判断されたのかもしれません。しかし、現在の博多駅を見ると相当な本数の列車が運行されています。特に朝のラッシュ時間帯では、3分おきに列車が発着しており、都市部の列車と遜色のない列車密度になっています。博多駅の電化は1961年ですが、当時はそこまで列車本数が多くなるとは想定していなかったのかもしれません。
交流電車の形式名
JR九州の形式名
では、改めてJR九州の交流電車に目を向けてみましょう。JR九州の電車は、近郊形は811系や813系、817系、最新型の821系などがあります。
特急形は特急リレーかもめ号などで使用される787系や、特急ソニック号などで使用される885系などがありますね。それぞれJR九州らしい、他の鉄道事業者とは一線を画した独特なデザインの列車です。
形式名の付け方
さて、これらJR九州の交流電車の形式名を見てみると、JR東日本のE235系や、JR西日本の227系などと比較して、どれも数字が大きいですね。JRの車両の形式はJR四国を除いて、数字3桁で表されているのですが、この数字は電車の電気方式や構造、用途、設計順序により決められています。
一桁目:電気方式
- 1〜3:直流電車
- 4〜6:交直流電車
- 7〜8:交流電車
二桁目:用途
- 0〜3:通勤形・近郊形
- 4 :事業用車
- 5〜8:急行形・特急形
- 9 :試作車
三桁目:設計順
(例)811系→813系→815系→817系
すなわち、交流電車の形式名の数字が大きい理由は、一桁目の数字が交流電車は「7」と「8」が振り分けられているからです。形式の付け方は、近郊形の813系の場合、交流電車で近郊形、811系の後に設計されているので、813系といった具合です。
交流電車の象徴「真空遮断器(VCB)」
真空遮断器とは
交流電車には、交流ならではの様々な装置を搭載しています。その中で外観上もっとも特徴的といえるのが、このパンタグラフの右に付いている装置「真空遮断器(VCB)」です。この真空遮断器は、交流20,000Vという高圧の電気を安全かつ確実に「入」「切」するための機器で、交流電車には必ず装備されているものです。
※VCB:Vacuum Circuit Breaker
なぜ必要なのか
20,000Vもの電圧がかかった回路を、通常の遮断器で「切」とすると、電極間にはアークという火柱が発生します。このアークは電圧が高ければ高いほど消すことが難しく、アーク熱により周囲の機器類が焼損する原因となるほか、空気が熱で膨張し爆発する危険があります。
真空遮断器は、このアークを構成する物質が真空内においては拡散して消滅する性質を利用する事により、高圧の交流を確実に遮断する役割を持っているのです。高圧の電気を用いる交流電車にとっては、まさに必須のアイテムですね。
交流電車まとめ
以上が「交流電車」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。
交流電化の特徴
交流電化の長所
- 沿線の変電所を少なくすることができる。
- 変電所の設備を簡素化することができる。
交流電化の短所
- 車両の構造が複雑になるので、重量が重くなり、高価になる。
- 電磁誘導作用の対策が必要。
直流電化の特徴【参考】
直流電化の長所
- 特別な機器が必要がなく、交流電車よりも安価。
- 電磁誘導作用の対策が不要。
直流電化の短所
- 沿線に多くの変電所が必要。
どちらの電化方式が有利なのか
- 車両が多く必要な高密度線区には、車両が安価な直流電化方式。
- 列車密度が低い線区では、地上設備が安価な交流電化方式。
交流電車の形式名
- JRの形式名は、JR四国を除いて数字3桁で表す。
- JR九州の交流電車の形式名の数字が大きい理由は、一桁目の数字が交流電車は「7」と「8」が振り分けられているから。
交流電車の象徴「真空遮断器(VCB)」
交流20,000Vという高圧の電気を安全かつ確実に「入」「切」するための機器。交流電車の象徴的な装置。
これまで4回にわたって「九州特集」をしてきましたが、いかがだったでしょうか。最後は、JR九州というよりは交流の在来線電車の紹介の色が強い記事となってしまいましたが、楽しんでもらえたらとても嬉しいです。
JR九州の車両は前回紹介した800系新幹線も含め、JR他社の車両と比較して個性が強い独特なデザインの車両が多く、見ていて本当に飽きません。新型車両のほとんどが日立製のアルミ電車というのも、JR他社には見られない特徴でしょう。もし、九州に来られる機会がありましたら、是非個性あふれるJR九州の列車を楽しんでみて下さい。
最後にこれまでの「九州特集」の記事のリンクを載せておきます。まだ、読まれていない方は是非チェックしてみて下さい!
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