世の中には様々な業界があり、その業界ごとに「専門用語」が存在します。鉄道業界も同様、一般には使われない言葉や一般にも使われているのだけど、読み方や意味合いが異なるものが存在します。
以前、電車に電気を供給する架線のお話を紹介しました。これも「かせん」ではなく「がせん」と呼ぶなんてお話しましたね。読み方で言えば手動を「てどう」、試刷を「しずり」と読んだりと、挙げれば変な読み方がたくさん存在します。なお、読み方については鉄道事業者によって異なる場合があります。それぞれの会社の「文化」とも言えますね。
さて、今回のテーマはこの「専門用語」なのですが、読み方ではなく、意味合いそのものが一般に使われている用語の意味と異なる単語「列車」についてご紹介いたします。結論から申し上げますと、1両編成で列をなしていなくても、お客さんを乗せて走っていれば、それは「列車」と呼びます。詳しく見ていきましょう!
列車とは?
一般的な「列車」の意味
列車は「列をなしている車」と書きますので、2両編成以上の電車や気動車(ディーゼルカー)などを思い浮かべるのではないでしょうか?実際のところ、一般的には「線路の上を走る複数の車両を連結したもの」を列車と言います。逆に、1両編成だと列車ではなく「車両」と表現した方がピンとくる方が多いのではないでしょうか。
鉄道用語としての「列車」の意味
ところが、この1両編成の電車・気動車も鉄道用語ではれっきとした「列車」なのです。なぜ、列をなしていなくても「列車」なのか。理由は、列車とは
「停車場(=駅)の外を安全に走るために必要な諸条件を満たした車両」
の事を指す言葉だからです。すなわち、駅と駅の間を安全に運転できれば、他の車両と連結されているか否かは関係ありません。逆に言えば、この条件を満たしていない場合は、どれだけ車両を連結していたとしても「列車」を名乗ることはできません。それはただの「車両」となるのです。
停車場外を安全に走る条件
それでは、車両が「列車」と名乗るためには、どのような条件が必要なのでしょうか。条件は省略できるものも含めると合計で7つもあります。なんか思ったより結構多いですね…険しい道のりです。この諸条件を満たした選ばれし車両が、「列車」の名を手にできます!それでは、一つずつ見ていきましょう!
牽引定数を超えないようにすること
機関車は牽引できる客車の両数が、電車は1両のモーター車両が牽引できるモーター無し車両の両数が決まっています。これを「牽引定数」と言い、この牽引定数を守らずに編成を組んでしまうと、上り坂を登りきれなかったり、時刻通りに駅に辿り着けなかったりしてしまいます。ケチって10両編成中、モーター車を1両にしました!…これだと当然うまく走れません、当たり前ですね。列車となるには、この「牽引定数」を超えないように編成を組まなくてはなりません。
車両同士を確実に連結すること
気がついたら、走行中に連結していた車両がバラバラになっていた…こんな列車乗りたくないですね。車両をもし連結させるのであれば、バラバラにならぬよう車両同士をしっかり連結させなければ、列車にはなれません。
先頭車両の一番前の運転台で操縦すること
一番前の運転台で運転しないと列車とは呼べません。前が見えませんからね!「一番後ろの運転台からバックで運転しないでね」ということです。運転士は前方の信号・標識の確認の他、踏切や駅のホームでは異常がないか注意して運転を行います、当然のお話です。ただし、車両が故障してやむを得ない場合を除きます。
列車の前と後ろを明確にすること
線路上には踏切を通行する自動車や通行人、線路を保守する係員がいます。そういった人たちに、列車の存在を明確に示さなければ接触事故を引き起こす可能性があります。
そこで、列車とするには前と後ろを判別できるよう「列車標識」という標識を付けることが定められています。また列車標識のうち、前に付けるものを「前部標識」、後ろに付けるものを「後部標識」といいます。そんなのあったっけ?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、要するに自動車でいうヘッドライトが前部標識、テールライトが後部標識です。自動車は、前方を照らすために設けられていますが、列車は「前である事」を周りに知らせるための標識としてライトをつけています。
貫通ブレーキを使用すること
もし、運転士がブレーキをかけた時に、車両によってブレーキがかかったりかからなかったりしたら、乗り心地が悪化したり、停止位置に止まれなかったり、最悪の場合は後ろの列車に押されて脱線したりする可能性があります。
また、走行中に万が一連結している車両が外れてしまったら、後続列車に衝突してしまう危険があります。
そのため、連結した全ての車両に一斉にブレーキがかかること、そして万が一連結が外れたら、自動でブレーキがかかることが列車になるための条件になっています。なお、このような作用をするブレーキの事を「貫通ブレーキ」と言います。
列車防護要員を同乗させること
事故が発生した際、近くを走る他の列車を停止させ、二次災害を未然に防ぐことを「列車防護」と言います。列車とするには、運転士のほか、この列車防護のための係員を同乗させなくてはならないのですが、この役割を通常は車掌が担っています。
普段、列車を利用していると車掌さんは車内放送やドアの開閉を行う係員という印象がありますね。それも、重要な仕事なのですが、実は万が一の時の「列車防護要員」でもあるのです。
ちなみに、この列車防護要員は一定の条件を満たせば省略することができます。ワンマン運転を行なっている列車がその代表例です。
停車場の長さに対応していること
運転する線区の停車場に収まるよう、予め定められた長さ以下に車両を連結しなければ、列車とする事ができません。たくさんお客さんが乗るからといって車両を繋げまくって、結果駅に列車が収まらなくなった…ということがないようにして下さいという意味です。
はみ出すだけならまだしも、単線区間だと反対列車との行き違いができなくなったり、最悪の場合は他の列車と衝突したりする危険があります。運転する線区の停車場に応じて、適切な長さの編成にしなくてはなりません。
鉄道用語「列車」のまとめ
以上が、鉄道専門用語における「列車」のご紹介でした。内容を以下にまとめます。
「列車」とは
「停車場(=駅)の外を安全に走るために必要な諸条件を満たした車両」をいう。
7つの必要な諸条件
- 牽引定数を超えないようにすること。
- 車両同士を確実に連結すること。
- 先頭車両の一番前の運転台で操縦すること。
- 列車の前と後ろを明確にすること。
- 貫通ブレーキを使用すること。
- 列車防護のための係員を同乗させること。※条件付きで省略可
- 停車場の長さに対応していること。
当たり前のことだけど…
当たり前を侮るなかれ
列車の条件7つをご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?こうやって見てみますと、意外とどれも「当たり前のこと」ですね。わざわざ条件にするまでもないと思うような条件もあります。しかし、当たり前ではあるものの、とても重要な項目です。過去には、車両の連結器が外れて大きな事故になった事象が実際にあります。また現代においても、稀に停車場で入れてはいけない短い番線に長い貨物列車を進入させてしまい、信号が切り替わらなくなってダイヤ乱れが発生するという事も発生しています。列車の条件は「侮るなかれ」です。
乗務員や車両係員の努力
列車は始めから「列車」なわけではありません。車両の係員や運転士がブレーキや連結器が正常か確認し、安全に運行できる状態となって初めて、車両から「列車」となるのです。また、車掌は列車防護のための訓練もされています。車両を列車にするためには、あらゆる方々の支えによって成り立っています。普段何気なく利用していますが、このように考えると関係者の方々の努力に頭が下がる思いがいたします。
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