駅長は「駅長」ではない?鉄道用語の謎②

鉄道雑学

 前回は、鉄道専門用語「列車」についてご紹介させていただきました。列車とは「停車場外を安全に走るために必要な諸条件を満たした車両」であり、他の車両と連結されているか否かは関係ないですよ、という話をさせていただきました。

 今回も前回に引き続き、一般的な意味合いと異なる鉄道用語をご紹介したいと思います。今回のテーマは「駅長」です。

 駅長といいますと、当然駅で一番「エラい人」というイメージだと思います。社長は会社のトップ、校長は学校のトップ、駅長であれば駅のトップですよね。ところが、鉄道用語では駅長はこの一番エラいトップの人ではありません。結論から申し上げますと、駅長とは駅構内の信号やポイントなどを操作する係員を指します。まさか!皆さんが見たエラそうなあの駅長は偽物なのか!?(笑) それでは、詳しく見ていきましょう!

駅長とは?

一般的な「駅長」の意味

 駅長とは鉄道の駅における「最高責任者」という意味で理解されている方が多いと思います。実際、国土交通省令「鉄道係員職制」の第四条を見てみますと運輸長の命を受け、駅務を統括し、構内の秩序を保持し、その所属係員を監督する。」と明記されています。すなわち、皆さんが想像している駅長のことですね。良かった!偽物ではありませんでした。

鉄道用語としての「駅長」の意味

 ところが、規程上では駅長を「列車または車両の運転取扱いに関して、停車場の運転取扱いの業務を行う係員」と別の意味で定義付けされています。

 各鉄道事業者には、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」という省令に基づき、省令の実施に関する基準を定めた社内規程があります。実際の現場においては、この規程に従って業務を行なっているのですが、この規程上における「駅長」という言葉が、先ほどの一般的な解釈の駅長と意味合いが異なるのです。

運転取扱いとは?

 「運転」と聞くと、乗り物を操縦する様子を思い浮かべてしまうと思うのですが、これも通常の意味合いとは異なります。駅業務における運転取扱いとは、ポイントの操作や信号機の取扱いのことを指します。すなわち、駅長とは駅構内の列車の運行を総括する立場の係員のことです。必要な資格・教育を受ければなることができるので、管理職でなければならないなんてことはなく、一般の社員も駅長を名乗り、業務を行っています。

運転取扱い者を駅長と呼ぶのはなぜか?

 鉄道黎明期においては、その名の通り、駅の最高責任者である駅長が、運転取扱いを実施していました。ところが、列車本数が増え、駅の規模も拡大していくと、一人の駅長ではその業務を賄いきれなくなってきます。そこで、運転取扱いのために指定した複数の社員も「駅長」とし、それぞれ責任者として運転取扱いをやってもらうことにしたのです。これが、運転取扱いをする社員=駅長となった経緯です。

CTCと少なくなった在来線の駅長

 この運転取扱い業務を行う駅長は、過去には各駅に配置され、信号やポイントの操作をしていましたが、現在は大半の路線が「列車集中制御装置(CTC)」に制御され、各駅に駅長を配置しなくても運行できるようになりました。このCTC方式が導入された区間を「CTC区間」といい、この区間の指令業務に携わる社員のことを「CTC指令員」といいます。CTC指令員は担当する線区の運転取扱い業務を遠隔操作で行うので、CTC方式が採用されている線区における駅長はCTC指令員となります。そのため、在来線の駅に駐在する駅長は、今ではすっかり少なくなっています。

※「CTC」とはCentralized Traffic Controlの略です。

新幹線駅の駅長

 在来線の駅ではCTC方式の導入により、駅に駐在する駅長は少なくなったとお話しましたが、新幹線の駅においては現在でも各駅に駅長がいます。新幹線は東海道新幹線開業時からCTC方式なので、本来は運転取扱いは発生しません。しかし、異常事態が発生したときや、夜間の保守作業のときなどには、CTCによる中央制御から駅による個別制御に切り替える事があります。その時のために、新幹線駅では駅長は常に駅に配置されているのです。ちなみに、CTCにより制御されている状態を「中央扱い」、それに対して駅により個別制御されている状態を「駅扱い」と言います。

 普段は、赤い旗を持って列車の到着や発車の監視業務を行っているほか、ホーム上で案内放送なども行っています。

「駅長」まとめ

 以上が、鉄道専門用語における「駅長」のご紹介でした。内容を以下にまとめます。

  • 駅長とは「列車または車両の運転取扱いに関して、停車場の運転取扱いの業務を行う係員」をいう。
  • 駅業務における運転取扱いとは「ポイントの操作や信号機の取扱いのこと」を指す。
  • 過去には駅の最高責任者が運転取扱いを実施していたが、列車本数や規模の拡大にともない、運転取扱いを複数人で分担するようになり、駅長=運転取扱い者となった。
  • 列車集中制御装置(CTC)が導入された在来線の各駅では、駅長を配置する必要がなくなった。
  • 新幹線はCTCだが、列車の到着・発車の監視業務の他、駅で運転取扱いを行う「駅扱い」に備え、今でも各駅に駅長が駐在している。

 今回は2回に分けて鉄道用語である「列車」と「駅長」を解説いたしました。一般に使われている意味合いとの違いに驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?専門用語にはそれぞれ生まれた背景があり、それを紐解いてみると意外な発見があってとても面白いです。先人の方々が聞き間違いを防いだり、わかりやすく相手に伝えるために編み出した言葉が、その業界の専門用語となることもあります。

 また、同じ鉄道業界でも事業者によって使っている用語が異なっていたり、同じ会社内でもJRのような広範囲をカバーする事業者ですと、各支社で使っている用語が異なっていたりします。その地域に根ざした独自の方言の要素もあります。今回の記事を通して、鉄道業界の独特の雰囲気を少しでも感じていただけたらとても嬉しいです。

 最後に、前回ご紹介した鉄道用語「列車」のリンクを下に貼り付けておきます。もし、まだ読まれていないようでしたら、是非こちらもチェックしてみて下さい!

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