ここ数日、各地で激しい雨が降り続き、列車の運転を見合わせる事象が相次ぎました。通勤通学に苦労された方も多いのではないでしょうか?特に広島地区、山口地区では雨がやんだ後も長時間に渡って運転見合わせが続きました。
さて、ここで一つ疑問が浮かびます。雨がやんだにもかかわらず、列車が止まっている地域があるのは何故でしょうか?感覚としては、雨がやめばすぐに運転再開しても良いような気がします。場所によっては、晴れているにもかかわらず、大雨を理由に列車の運転を見合わせ続けている線区もあります。「晴れてるんだから動かしてくれよ!」列車を利用する立場からすると、そう思うのは当然です。
結論から申し上げますと、仮に雨がやんだとしても、線路に染み込んでしまった雨水の排水を待ったり、土砂崩れの有無や線路状態の確認を行ったりしたあとでなければ、列車の運転を再開することはできません。今回のテーマは「大雨による運転規制」です。それでは、詳しく見ていきましょう!
雨による規制の基準
国鉄時代の1972年9月、「降雨に対する運転規制基準作成要領」が制定され、雨が降った際の運転規制に関するルールが定められました。この中でポイントとなるのが「時雨量」と「連続雨量」の2つの基準値です。
時雨量
1時間あたりの雨量を指します。任意の時刻に対して、過去1時間の累積雨量を「時雨量」といいます。
連続雨量
降り始めてからの連続雨量を指します。ただし、もし12時間以上やんでいる時間が続いた場合は、連続雨量が0mmにリセットされます。すなわち、12時間以内に降ったりやんだりを繰り返した場合には、その雨量は累積で計算されます。
この考え方ですと、連続雨量の規制値に達した場合、雨がやんだあと12時間を経過しないと運転再開ができないことになってしまいますが、実際には線区の線路状況を詳細に把握した上で、早期に運転再開を実施するようにしています。
規制は「時雨量」と「連続雨量」の組合せ
雨量計は、おおむね鉄道沿線に10kmおきに設置されていて、運転規制を実施する区間ごとに降雨の観測をしています。運転規制を行う際は、「時雨量」と「連続雨量」を組み合わせ、基準値に達した場合に規制を実施します。そのため、短時間しか降っていないのにも関わらず大量の雨が降った場合、ならびに通常の雨でも長時間に渡って断続的に降り続いた場合には、規制の対象になる可能性があります。
実効雨量・土壌雨量
時雨量と連続雨量の組み合わせの規制基準は、国鉄時代に制定され、JRとなった後も踏襲されていましたが、現在では新たな基準値を参考にしている鉄道事業者もあります。
例えば「実効雨量」や「土壌雨量」と呼ばれている基準値は、土の中に染み込んでいる水分量を参考にした考え方です。以前の「連続雨量」だと、12時間を超えて雨がやまないと雨量がリセットされません。それに対して、この実効雨量または土壌雨量は、土の中の水分量を基準としているので、より詳細な災害リスクの把握や、運転再開の早期実施に役立てることができます。
線区・区間の特徴
盛土の線路とコンクリート製の土台の上に敷かれた線路、また斜面が迫っている区間とそうでない区間では、雨に対する耐性が全く異なるのはイメージできますよね。そのため、運転規制の基準となる雨量は、線区や規制区間により異なります。同じ地域を走っているにもかかわらず、運転再開が早い路線と長引く路線が存在するのはこのためです。
運転規制までの流れ
さて、先ほどの2種類の雨量を参考に規制値を設定していると説明しました。強い雨が降ると、雨量が規制値に近づいていきますが、集中豪雨で一気に基準値を上回るような雨でなければ、規制は段階を踏んで徐々に実施されます。具体的には「徐行」から始まり、その後に「停止」となります。
通常運転
時雨量、連続雨量ともに安全に運転できる基準値の場合です。
速度規制
強い雨や、長時間に渡る雨のため、鉄道施設に影響を与える可能性がある時に行います。地盤の崩壊や土砂流出、また川が増水して橋桁に水面が近づくなど、危険性が高まっている状態です。この時は、施設係員が列車に乗り込むなどして、施設の安全確認を行います。
運転見合わせ
局地的に強い雨が長時間続くなどして、鉄道施設へ与える影響が非常に大きくなると、列車の運転を見合わせる措置をとります。ここまでくると、線路の路盤や斜面などが崩落する可能性が非常に高くなります。また、増水した川面が橋桁にかなり接近していたりすることもあり、列車を安全に運転する事が困難となります。
運転規制解除までの流れ
大雨で運転見合わせとなったあと、雨が小康状態となると、運転再開に向けた準備が行われます。
線路の点検
雨が規制値を下回ると、係員の「徒歩」による巡回が行われます。実はこれがかなり時間を要する点検で、係員が手分けして歩いて規制区間を全線に渡って点検します。線路路盤の崩落や土砂流出の可能性がある以上、この方法でしか点検ができません。雨がやんでもすぐに運転再開ができない理由の一つに、この係員による徒歩巡回が挙げられます。
土壌の水分量を把握
時間雨量を採用している場合は、12時間が経過しない限り雨量をリセットすることができません。また、実効雨量・土壌雨量を採用している事業者は、土壌に染み込んだ水分を把握し、水分が抜けて安全が確認できない限り、運転を再開することはできません。
運転規制解除後
指令所による運転整理
線路に異常がない場合は、列車の運転を再開しますが、全ての列車が一斉に動き出すわけではありません。指令所は、列車の止まっている箇所を考慮して、列車の発車順序や運転区間を決め、早期に通常のダイヤに戻るよう線区全体を見ながら、列車に指示を出します。
一番列車の線路点検
運転再開後の一番列車は、運転士に線路状態を確認してもらうために、徐行で運転するよう指示を出すこともあります。上記の理由から、「運転再開」と情報が入ったとしても、利用している列車がすぐに動かなかったり、徐行運転したりすることがあるので、まだ少し時間がかかることを理解しておきましょう。
大雨による運転規制まとめ
以上が、「大雨による運転規制」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。
雨による規制の基準
- 時雨量 :1時間あたりの雨量
- 連続雨量:降り始めてからの累積雨量。ただし、12時間以上降らなければ0mmにリセット。
→国鉄時代に制定した基準値。この2つを組み合わせて規制値を設定。
- 雨量計はおおむね10kmごとに設置され、規制を行う区間ごとに雨量を観測。
- 近年は連続雨量に代わり、実効雨量・土壌雨量といった土壌の水分量を考慮した新たな基準を使用している。
- 線区や区間の特徴により、運転規制の基準値は異なる。
運転規制までの流れ
- 通常運転 :安全に運転できる。
- 速度規制 :危険性が高まってきており、安全点検が必要。
- 運転見合わせ:基準値に達し、安全に運転する事が困難。
運転規制解除までの流れ
- 徒歩巡回などの線路点検。
- 連続雨量・実効雨量・土壌雨量を参考に、土壌の水分が抜けるのを待つ。
運転規制解除後
- 指令所による運転整理。
- 一番列車は、点検のために徐行することがある。
大雨が降ったあと、天候が回復したあともすぐには運転再開ができない理由が、少しは理解していただけたのではないでしょうか?列車の運転がすぐに再開されないのは、点検作業や土壌水分が抜けるのを待つ必要があったからです。列車を利用する側としては、すぐに動かして欲しい気持ちになりますが、そんな時は施設社員の方々が線路を頑張って歩いてくれているんだと少しだけ思い出していただけたらなと思います。
また、新幹線は在来線よりも雨に強いので、もし並行して走っているような区間であれば、万が一の時の代替手段として考えてらおくのも良いでしょう。
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