通過線のある新幹線駅で列車を待っていると、目の前を物凄いスピードで駆け抜けていく通過列車を目にすることができます。新幹線は全線が立体交差化されており、間近で列車が見られる場所は限定されてしまいますので、駅は新幹線ウォッチングにとっては貴重な場所ですね。YouTubeなどでも、駅を高速で通過する新幹線が数えきれないくらい投稿されています。目の前を300km/h前後で通過する新幹線は本当に圧巻です。
さて、新幹線は高速で運転するために作られた鉄道なので、全線を最高速度で運転しているようなイメージがあるかもしれませんが、実はそうではありません。規格が古い東海道新幹線はカーブがきつい区間が多く存在しますし、その後にカーブを極力緩くして建設された山陽新幹線においても、やむなく速度制限がかかる箇所があります。
そこで、今回のテーマは「速度制限がある山陽新幹線の途中駅」としました。速度計測アプリをもとに、最高速度である300km/hで通過する事ができなかった通過駅をピックアップしてご紹介いたします。
高規格な山陽新幹線
まずは山陽新幹線の特徴について、軽くおさらいしておきましょう。山陽新幹線は東海道新幹線の後に作られた路線とあって、東海道新幹線で得られた経験や反省をもとに様々な改良が加えられています。代表的なものとしては、曲線半径の拡大とこう配の緩和です。
曲線半径の拡大
東海道新幹線は220km/h運転を基準に建設されましたが、対する山陽新幹線は将来の速度向上を見据え、260km/hに対応できる曲線半径としました。そのため、東海道新幹線では曲線半径を2,500m以上としたのに対し、山陽新幹線では半径4,000m以上を基準としています。
東海道新幹線の全線に占める直線区間の延長は59%、それに対し山陽新幹線の直線区間は54%です。このことから、山陽新幹線は直線区間を長くするというよりは、速度を落とさなくても通過できる緩やかなカーブを多用することにより、速度向上を目指すという考え方に基づいて建設されているといえるでしょう。
こう配の緩和
こう配は、新幹線車両のモーター温度上昇に配慮して決定されています。
東海道新幹線では220km/hでの運転を前提とし最も急なこう配は15‰、延長1km以内に限り20‰に設計されています。
一方、山陽新幹線については10km間の平均こう配が12‰以下、最も急なこう配は15‰と、将来の速度向上を考慮して東海道新幹線よりも緩やかに設計されています。
※1‰(パーミル)とは1,000分の1という意味です。例えば15‰の場合、1,000m進むと15m上がるこう配を指します。
速度制限がある駅と通過速度
何度、速度計測アプリで測っても同じタイミングで速度を落として通過する駅をピックアップしてみました。以下が、その駅と通過速度の例です。
- 西明石駅(273km/h)
- 福山駅(271km/h)
- 三原駅(274km/h)
- 徳山駅(193km/h)
最高速度で通過できない原因について、一駅ずつ考察してみようと思います。
西明石駅(273km/h)
上り列車だと姫路を越え、並走していた在来線と別れていく辺りから西明石通過後まで、270km/h前後をいったりきたりします。予想されるATC信号は275信号です。
実はこの区間、カーブは数箇所存在するものの特段きついものは見当たらず、速度に制限がかかる理由がよくわかりません。長い直線もあり見た目は300km/hで運転しても問題なさそうな印象です。
この西明石〜姫路駅間はトンネルが多用されている山陽新幹線で唯一、トンネルが一切存在しない区間です。沿線は途切れることなく住宅地が広がっており、山間部を走るイメージがある山陽新幹線においては特異な区間です。その為、もしかしたら沿線の騒音や振動といった環境に配慮し、意図的に速度制限をかけているのかもしれません。
なお、同じように沿線環境への配慮を理由に速度制限をかけている例として有名なのは、東北新幹線の上野〜大宮駅間で、最高速度130km/hに制限されています。
福山駅(271km/h)
福山駅は、新幹線駅で一番「お城に近い」駅として有名です。北側に福山城を間近に見ることができます。正確には、近いのではなくお城の敷地内にある駅で、お城とは逆の南側にも遺構が見つかっています。江戸時代の人が見たらさぞかしビックリするでしょうね。
さて、その福山駅と前後の線路は、この福山のシンボル「福山城の天守閣」を避けるように建設され、南に弧を描くようにカーブしています。直線で効率よく線路を敷こうとすると、天守閣の真上を通過することになってしまうからです。開業当時は、最高速度210km/hの0系新幹線のみだったので問題なかったのでしょうが、速度が向上した現在では速度制限箇所の一つになってしまいました。
予想されるATC信号は275信号、広島県と岡山県の県境のトンネル、広島県方の出口と芦田川の西側付近の間を270km/h前後で走行します。
三原駅(274km/h)
こちらも福山駅と同様、お城の敷地内に駅が設置されています。ただ、天守閣はなく、残されているのは天守台や石垣などの遺構のみです。三原駅自体は直線なのですが、博多方が大きくカーブしています。何かを避けるというよりは、地形の都合上カーブしているような構造です。
予想されるATC信号は275信号、列車は上下線とも三原市の市街地を270km/h前後で走行、三原駅を通過後、トンネルに入った辺りから再度速度を向上させます。
徳山駅(193km/h)
今回紹介する通過駅の中で、一番速度制限が大きい駅です。徳山駅も三原駅と同様、何かを避けるというよりは地形の制約によるもので、瀬戸内海の海岸線に沿うように大きくカーブします。
この徳山駅、日本で一番海が近いそうで駅から海までわずか200m、新幹線8両分しか離れていません。瀬戸内海の穏やかな海を一望できる上、沿線は工業地帯で煙突を何本もこしらえた工場が無数に建ち並び、夜は綺麗な夜景を楽しむこともできます。
予想されるATC信号は200信号、徳山駅を195km/h前後でゆっくりと通過していきます。あまりにも大きく減速するので、徳山駅だけは近づくとすぐにわかります。ボーっとしていたら、停車駅かと勘違いするほどです。0系や100系が活躍していた頃、ずっとこの速度で走っていたのかと思うと、現在の新幹線がいかにスピードアップを果たしたかを強く実感します。
速度制限がある山陽新幹線駅まとめ
以上が「速度制限がある山陽新幹線の途中駅」に関するお話でした。内容を以下にまとめます。
高規格な山陽新幹線
山陽新幹線は将来の速度向上を考慮し、曲線半径の拡大とこう配の緩和がなされている。
曲線半径
- 東海道新幹線:2,500m以上
- 山陽新幹線:4,000m以上
こう配
- 東海道新幹線:20‰
- 山陽新幹線:15‰
速度制限がある駅と通過速度
速度計測アプリで測定した結果をもとに、速度制限がある可能性がある駅をピックアップ。
- 西明石駅(273km/h)
- 福山駅(271km/h)
- 三原駅(274km/h)
- 徳山駅(193km/h)
西明石駅
姫路の東側から西明石の東側にかけて270km/h前後で走行。制限理由は定かではないが、住宅密集地を走行することから、沿線環境へ配慮している可能性がある。予想されるATC信号は275信号。
福山駅
福山城の天守閣を避けるべく、南に弧を描くようにカーブ。広島県と岡山県の県境にあるトンネルと芦田川西側付近の間を270km/h前後で通過。予想されるATC信号は275信号。
三原駅
駅自体は直線だが、地形の関係から博多方がやや大きく南にカーブしている。三原市の市街地を270km/h前後で通過する。予想されるATC信号は275信号。
徳山駅
最も大きな速度制限を受ける駅。海岸線に沿うように大きくカーブしており、195km/h前後で通過する。予想されるATC信号は200信号。日本で最も海に近い駅で瀬戸内海を一望できるほか、夜は工業地帯の夜景を楽しむことができる。
在来線と比べればはるかに少ないとはいえ、新幹線でもところどころ速度を落とさざるを得ない箇所が存在することがわかったのではないかと思います。今回は山陽新幹線を例にお話しましたが、東海道新幹線だと熱海駅が有名ですね。山間部の急曲線を大きく速度を落として通過します。もともと日本は諸外国と比較すると平野部が少ないので、カーブは日本の鉄道の宿命ともいえるでしょう。
速度計測アプリは、無料で様々なものがダウンロードできます。新幹線に乗った際、今の速度は何km/h出ているのかな?と車窓を見ながら調べるのも面白いですよ!GPSを用いるのでトンネル内ではうまく表示されない事があるのが難点ではありますが、よかったら是非試してみて下さい!
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