新幹線はなぜ「停電」するのか?のぞみ12号のトラブル

鉄道ニュース

 2024年7月6日(土)12時16分、静岡〜掛川駅間において停電が起こり、上下線で運転を見合わせるという輸送障害が発生しました。運転見合わせは長時間に及び、全線で再開したのは約3時間後の15時過ぎ。報道各社によると上下線で合計27本が運休、108本に最大で3時間20分の遅れ、9万7,000人に影響が出たとのことで、非常に大規模なダイヤ乱れとなりました。

 さて、新幹線はトラブルが発生すると、よく「停電」により列車が停止します。何故でしょうか?在来線でトラブルが発生しても、ニュースではあまり「停電が発生したため…」とは聞きません。

 結論から申し上げますと、新幹線は在来線と違い、まず異常を検知した時は、まず架線を意図的に停電させて周囲の列車を止めることで、併発事故(=二次災害)を防ぐシステムになっているのです。本日のテーマはこの「新幹線の停電」です。詳しく見ていきましょう。

今回のトラブルの原因

出典:JR東海 ニュースリリース 東海道新幹線 静岡駅~掛川駅間停電の原因について

 さて、今回原因となった列車は同区間を走行していた「のぞみ12号」です。調査の結果、12号車と13号車の間にある特高圧ケーブルという、パンタグラフから取り込んだ電気を各車両に送るケーブルが損傷し、地面に電気が流れてしまう「地絡」という現象が起きていたことがわかりました。地絡が起きた原因はまだわからないそうで、現在調査が行われている他、他の編成の特高圧ケーブルに異常がないか緊急の点検をしているとのことです。写真を見ると、屋根上に通されたケーブルが損傷し、電気がショートした痕跡が確認できます。

新幹線はなぜ停電するのか?

意図的に停電させる「保護接地スイッチ」

 さて、ここからが本題です。新幹線は何故「停電」するのでしょうか。運転士は新幹線を運転中に異常を認め、緊急に周囲の列車を停止させなくてはいけなくなった場合、運転台に設置してある「保護接地スイッチ(EGS※)」という緊急スイッチを扱います。このスイッチを扱うと、通常パンタグラフから各機器に送られている架線からの電気が、直接レールに送られます。電車の電気は、変電所から送られてきた電気を列車が消費した後、レールを通して変電所に戻るという、大きな「閉回路」を構成しているのですが、列車に消費されずにそのまま変電所に戻されると、大きな電流を「異常」と検知して送電を止めるようにできているのです。架線の送電を止めることを、鉄道用語では「き電停止」と言います。保護接地スイッチを取扱うと、上下線で数十kmに渡って架線が停電します。停電した区間を走行する列車は、運転台に「02信号」という特別な停止信号を受信し、停止します。

※EGS:Earth Ground Switch

「のぞみ12号」の地絡も現象は同じ

 今回、のぞみ12号は特高圧ケーブルの不具合により「地絡」が発生したとありますが、このようにパンタグラフやケーブル、架線などの故障が発生した場合も停電することがあります。これは、機器に流れるはずの電気がレールにショートし、結果的に保護接地スイッチを扱ったのと同じ現象が起きているからです。

 昨年には、2023年7月12日に架線を吊る部品が欠損し、折れた部品が新幹線の車体に接触したトラブルがありました。この時も、車体を介して電気がショートした事による「停電」が発生しています。

停電の副作用

停電は新たな問題を生む

 ここまで、新幹線は緊急に周囲の列車を止める必要が生じた時は「保護接地スイッチ」を扱って意図的に停電させ、列車を停止させるという話をしました。これで、関係する列車が全て止まれば、まずは併発事故の発生は防ぐことができます。良かった、これで安心!と言いたいところなのですが、実は新たな問題がここで発生します。

空調装置が使えない

 新幹線は停電してしまうと、空調が全て停止します。トンネル内や過ごしやすい季節であればまだ大丈夫ですが、これがもし夏の炎天下の中の出来事だったらどうなるか?車内はあっという間に蒸し風呂状態です。新幹線はご存知の通り、在来線と違って窓は開けることができません。換気は唯一、デッキのドアのみです。今回、のぞみ12号はトンネル内に停止したそうですが、それでも暑苦しさを訴える乗客がおり、ドアを開けて対応したようです。もし外だったら、もっと環境は悪化していたかもしれません。

トイレが使えない

 停電のもう一つ怖い現象として、トイレが使用できなくなることです。今回の「のぞみ12号」では、備え付けの簡易トイレを使用したとありますが、この数にも限りがあります。トイレが使用できないから水分補給を控えていたら、車内の暑さで多数の乗客が脱水症状に…長時間停車では十分に起こり得ます。

原因を究明して一刻も早く送電再開を!

 き電停止は、併発事故を防止することができますが、空調やトイレなど、長時間過ごすのに必須である機能が損なわれるため、停電した理由を一刻も早く突き止めて、送電を再開しなければなりません。列車の安全のために電気を止める必要がある一方、乗客の安全のために早く電気を送らなければならないのです。今回の件においては、地絡した原因の究明と応急処置に時間がかかる事象であったため、長時間にわたり停電せざるを得ない状況でした。

改良されたN700S系の蓄電池

容量が小さい従来の蓄電池

 停電時に空調が使えないのは、空調そのものが大きな電力を必要とするからです。新幹線車両には、電源が絶たれた時のために蓄電池が搭載されています。ところが、この蓄電池の容量は少なく、放送装置や予備灯を点灯させるなどの必要最低限の機器しか賄うことができません。

蓄電池で自走できるようになったN700S系

 最新型のN700S系では、蓄電池の容量が大幅に改善され、緊急時には電気が絶たれた状態であっても、最寄駅まで運転できるように改良がなされました。従来型と比べると大きな進歩ですね。しかし、あくまでモーターに供給するための電気なので、空調には使えません。

いよいよ空調にも使用可能に!

出典:JR東海 ニュースリリース 東海道新幹線 N700Sの追加投入について

 6月のJR東海のニュースリリースでは、2026年度から導入されるN700S系では、その機能がさらに改良され、蓄電池から空調へ電気を回すことができるようになるみたいです。将来的には、長時間停車となってしまった場合でも、今のような状況は回避できるようになるかもしれません。

新幹線の停電まとめ

 以上が、新幹線の停電に関するお話でした。内容を以下にまとめます。

今回のトラブルの原因

  • のぞみ12号の特高圧ケーブル破損により「地絡」が発生。
  • 地絡によりレールに大きな電流が流れ、変電所が送電を停止。

なぜ新幹線は停電するのか?

  • 新幹線の変電所は、レールに大きな電流が流れると、異常を検知して送電を止める。
  • 新幹線は運転台の「保護接地スイッチ」を取扱うことにより、レールに大きな電流を意図的に流し、停電させることができる。
  • 新幹線は「停電」させる事により、周囲の列車を強制的に停止させ、併発事故を防止するシステムになっている。
  • 今回のトラブルは、電気がショートしたことにより、結果的に保護接地スイッチを扱った時と同じ現象が起きた。

停電の副作用

  • 空調が使えない。
  • トイレが使えない。
  • 長時間停電は、乗客の負担に直結するため、早期の原因究明と送電再開が必要。

改良されたN700S系の蓄電池

  • 新幹線車両には蓄電池が搭載されているが、従来の車両には必要最低限の機器しか補えない。
  • 最新型のN700S系は、電気が絶たれても蓄電池の電力で自走できる機能が付いた。ただし、空調には使用できない。
  • 2026年度から導入されるN700S系は、蓄電池の電力で空調も使用可能になる。

 新幹線も人間が作り出した機械である以上は故障します。昔と比較すると、車両が故障する頻度はだいぶ少なくなったといいますが、それでも完全に0にすることは難しいと思います。N700S系の蓄電池のご紹介をいたしましたが、大切なのはトラブルが発生した時にいかに最小限に被害を留めるか、いかにリカバリーしていくのか、この視点だと思いました。

 新幹線の技術は日進月歩です。新型車や改良型が登場するたびに、これまで様々な機能が追加されてきました。色々な反省を活かし、これからも安全で安心できる新幹線であり続けてほしいですね。

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