先日、JR東海からN700S系に個室を導入するという発表がありました。定員・効率重視の東海道新幹線において個室が設けられるなんて!と、驚いた方も多いのではないでしょうか?
過去には100系新幹線の2階建て車両に個室が付いていましたが、300系のぞみ号が登場してからは効率重視の車両設計となり、以後現在に至るまで16両編成の列車に個室が設けられることはありませんでした。そのため、今回のN700S系への個室の導入は、車両の設計思想の大きな転換期でもあるのです。
では、現在の新幹線に個室が付いた列車が全くないのかというと、そうではありません。実は、山陽新幹線で主にこだま号として運用されている700系が個室を設けた唯一の新幹線として活躍しています。
今回のテーマは「新幹線の個室」です。N700S系に導入される予定の個室や、700系の個室、また今はなき100系の個室など、新幹線にまつわる個室のお話をしていこうと思います。
N700S系の個室
出典:JR東海 ニュースリリース「東海道新幹線への個室の導入について」
概要
レッグレスト付きのリクライニングシート、個別に調整ができる照明や空調、放送音量の他、専用のWi-Fiが整備されるそうです。照明や空調まで調整できるなんで、まるで自分の部屋のようですね。非常にプライベート感の高い個室になるみたいです。
価格・サービス開始時期
設備の仕様やサービス内容・価格などはまだ未定とのことですが、ニュースリリースの文言に「グリーン車よりもさらに上質な設備・サービスを備えた個室」とありますので、価格については少なくとも現行のグリーン料金よりも上になることが予想されます。JR東日本とJR西日本にはグリーン車の上級クラスである「グランクラス」があるので、その水準か、またはそれ以上の価格設定になるかもしれません。どのくらいの人気になるかはわかりませんが、1編成にわずか2室導入予定との事なので、繁忙期や比較的混み合う時間帯の列車だと、個室の予約を取ることが困難な可能性もありますね。現在、東海道新幹線では、喫煙ルームが廃止されたり、車内販売が終了して車販準備室のスペースに余裕ができたりしているので、もしかしたらその辺りのスペースを有効活用するかもしれないなと、個人的には思います。
サービス開始は2026年度だそうです。まだ少し先の話ではありますが、東海道新幹線ではまさに100系以来の個室復活です。楽しみにその登場を待つことにいたしましょう。そして願わくば、一度は使ってみたいですね。
700系の個室
さて、N700S系の高級個室は約2年後の登場を首を長くして待つとして、ここからは今でも利用できる、新幹線の個室についてご紹介いたします。個室がついているのは山陽新幹線で運行されている700系の8号車です。
概要
「コンパートメント」と呼ばれ、合計4室設けられてています。完全個室なのでプライベート感も非常に高く、リクライニングも可能で非常に快適です。卓上には落ち着いた色調のテーブル灯が設置してある他、コンセントも付いているので、パソコンや携帯電話の充電も可能です。しかも、これだけ充実していてグリーン料金なしで利用できるので、大変お買い得なサービスです、凄いでしょ!
使用する条件
しかし、700系全ての列車で個室として使えるわけではありません。実は、以下2つの条件が揃わなければ使用することができないのです。
8号車が「指定席」であること。
この条件が一番のネックです。700系は主に「こだま号」で使用されていますが、こだま号の標準的な座席区分は1〜3号車と7・8号車が自由席、4〜6号車が指定席です。条件は「8号車が指定席であること」なので、8号車も指定席に区分されている、少し特殊なこだま号に限定されてしまいます。7・8号車が自由席のこだま号の場合、個室は業務用室と掲出され、鍵がかけられていて使用することができません。以下、この条件を満たしている列車です。
【上り ひかりレールスター】
- 590号
【上り こだま号】
- 840、856、858、860、866号
【下り こだま号】
- 845、847、865号
3人以上の予約であること。
一人でものんびり使用したいところなのですが、この個室は4人用となっていて、3人以上でないと予約を取ることができません。
機会が少ない個室利用
以上を考えると、使用できる機会がかなり限定されてしまいます。現存する唯一の新幹線個室で素晴らしい設備ですが、なかなか使うことができないのが非常にもったいなく感じます。現に、8号車が指定席に区分されている700系の個室を見ると、大抵の場合、全室空いています。知名度の低さもあるでしょう。時刻表に小さく記載があるくらいで大々的には宣伝していないので、知らない方も多いと思います。せめて8号車が自由席の時も、この個室だけは業務用室ではなく指定席として使用できるようにはならないものなのか…もっと有効に活用すれば良いのにといつも感じてしまいます。
100系の個室
東海道・山陽新幹線の個室付き新幹線はこの「100系」が元祖です。個室が設置されていたのは、JR東海に所属していたX編成とG編成という2種類の編成でした。他にJR西日本所属のV編成という編成もありましたが、こちらには個室は設置されていません。
X編成
旧国鉄時代に設計・製造された、100系の初期型です。8号車と9号車が2階建てで、8号車は食堂車、9号車が2階がグリーン席、1階がグリーン個室となっていました。
9号車1階のグリーン個室は1人用が5室、2人用が3室、3人用が1室の合計9室が設置されました。
G編成
100系の後期型にあたります。X編成が東京〜博多駅間の長距離用に当てられたのに対し、こちらは東京〜新大阪駅間の短距離運用を念頭に設計されました。短距離であることと、ひかり号の乗客が当時増加傾向であったことなどから、8号車の食堂車は2階がグリーン席、1階は売店形式のカフェテリアに変更されています。
9号車は2階がグリーン席、1階がグリーン個室で変わらないですが、個室の種類が変更となり、1人用が3室、2人用が3室、3人用が1室、4人用が1室の合計8室となりました。X編成と比較すると、1人用の2室を4人用個室1室に変更しています。
今では見られない様々なサービス
グリーン個室には、電動リクライニング、カフェテリアと繋がる内線電話、アラーム・ラジオ機能付き時計、コンセント、オーディオユニット、クローゼットなどなど、至れり尽くせりの豪華設備です。ちょうど時代はバブルの絶頂期、今から考えると贅沢な設備の数々です。個室に限らず、食堂車、カフェテリアなどの供食設備も充実していました。
新幹線の個室まとめ
以上が、新幹線の個室のご紹介でした。内容を以下にまとめます。
N700S系
- 2026年度サービス開始予定。
- レッグレスト付きリクライニングシート。
- 個別調整ができる照明や空調、放送音量。
- 専用のWi-Fi。
- グリーン車よりも上質な設備・サービス。
- 1編成につき2箇所
700系
- 新幹線で唯一の個室付き列車。
- 「コンパートメント」と呼ばれ、完全個室でコンセント付き。
- グリーン料金不要。
- ただし、2つの条件を満たした場合のみ個室利用が可能。
- 8号車が指定席であること。
- 3人以上の利用であること。
100系
- X編成:9号車の1階に合計9室。
- G編成:9号車の1階に合計8室。
- 今では見られない様々なサービスや供食設備。
N700S系の個室がどのような形でサービス開始になるのか、今から楽しみですね。
また、ご紹介した通り、現在でも700系を使用した列車の一部で個室サービスが利用できます。なかなか限られた機会ではありますが、列車を選んだ上で是非使ってみて下さい。プライベート感満載で、きっと家族や友人との素敵な時間を過ごせるでしょう。
※700系の個室設定がある列車は、記事を執筆した2024年7月9日時点のものです。
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