今回のテーマは交流モーターを制御する「VVVFインバーター制御法」についてです。
直流モーターの制御方式の振り返り
これまで直流モーターの電圧調整をするための様々な制御方式を紹介してきました。
- 抵抗制御法
- 直並列制御法
- 弱め界磁制御法
- チョッパ制御法 (電機子チョッパ制御・界磁チョッパ制御)
- 界磁添加励磁制御法
最終的には性能とコストの兼ね合いから、直流モーターにおける制御方式は界磁添加励磁制御法にゴールしました。しかし、界磁添加励磁制御法では低速域では抵抗制御法も使用していますので、どうしても無駄が出てしまいます。また、直流モーターそのものも定期的に交換しなければならない摩耗部品が存在し、保守面で問題を抱えていました。もっと無駄なく、もっと安く、もっと手間がかからない、そんな魔法のようなお手軽モーターと制御方式ないものか…欲張りな人間は考えます(笑)
VVVFインバーター制御法の登場
これまで長きにわたり電車のモーターには直流モーターが使用されてきましたが、実は世の中には交流のモーターもあります。交流モーターは構造上、定期的に交換しなければならない部品が少ないため、メンテナンスの手間がかかりません。そのため、電車のモーターとして使用したかったのですが、制御するのがとても難しく、これまで本格的な実用化には至りませんでした。
その交流モーター、半導体技術の進歩により、いよいよ自由自在にコントロールができるようになりました。交流モーターの制御を行う救世主、それが今回ご紹介する制御方式「VVVFインバーター制御法」です。
VVVFインバーター制御法とは?
「VVVF」とは「Variable Voltage Variable Frequency」の頭文字で、日本語では可変電圧可変周波数制御法と言います。また「インバーター」とは直流から交流に変換する装置のことで、日本語では「逆変換器」と言います。つまり、直流を交流にし、さらにその交流の電圧と周波数を自在に操る事ができる制御方式だという事がわかります。凄いやつですね!
誘導電動機とアラゴの円盤
交流モーターにも種類があり、現在鉄道車両で主流で使われているのは「誘導電動機」というモーターです。誘導電動機は「アラゴの円盤」の原理を利用する事により回転しています。導体の円盤の上下に挟み込むように磁石を設置し、磁石は導体に触れないようにします。これを円盤に沿って回転させると、円盤内部に渦電流が発生します。この渦電流による磁力で、円盤は磁石の回転方向に動こうとします。これが、誘導電動機の動作原理です。
実際の誘導電動機においては、磁石を回転させるのではなく、代わりにモーターの固定子(周りの枠の部分)に交流電気を流し、あたかも磁界が回転しているような現象を発生させます。固定子に流す交流の周波数を変化させる事により回転速度を調整し、電圧を変化させることにより回転力を調整します。ちなみに、磁界がモーターの中でクルクルと回るように制御するので「回転磁界」と言います。誘導電動機の回転には回転速度や回転力を細かく制御する必要がありますが、そのためには周波数と電圧を自在に操れる技術が必要で、半導体技術が未熟であった時代にはそれが不可能でした。この回転磁界を生み出すのにVVVFインバーター制御法は不可欠な存在なのです。
直流電化区間では、架線から取り入れる電気は直流1,500Vです。この直流電気をVVVFインバーター装置を通して三相交流にします。三相交流とは、同じ電圧の単相交流を3つ(U相、V相、W相)組み合わせたもので、これらの電圧と周波数を調整し、誘導電動機を制御しています。
誘導電動機+VVVFインバーター制御の長所
直流モーターと比較して、誘導電動機とVVVFインバーター装置の組み合わせには、様々な長所があります。
- 電気の無駄が少ない
- 直流モーターより安い
- 保守が簡単
- 小型化、高出力化できる
- 回生ブレーキももちろん使える!
省エネルギーなのはもちろんですが、保守の手間が少なくなったのが大きな特徴でしょう。近年登場した新型車両は、ほぼ全てがこのVVVFインバーター制御法を採用しています。
先人の方々の努力
これまで、直流モーターの抵抗制御法から誘導電動機のVVVFインバーター制御法まで、簡単にではありますがご紹介してきました。電車列車の歴史とは、いかに電圧制御するかというテーマに挑み続けてきた歴史でもあります。いかに簡素で、いかに安価に、いかに省エネに、いかに手間がかからず、いかにスムーズな速度調整を行うか。先人の方々の努力により、このVVVFインバーター制御まで辿り着きました。そして、このVVVFインバーター制御そのものも日々進化しています。これから未来、どんな制御方式が新たに登場するでしょうか?とても楽しみな分野です。
普段列車に乗る時は全く意識しない電車の制御方式ですが、今度電車に乗る時は是非意識してみてください。車両の床下で、今日も制御装置が電気を制御すべく黙々と仕事をしています。
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